【出口】経営学の視点からはいかがでしょう。
【入山】頷けることは多いです。個人的に面白く見ているのが信のビジョンの変化です。連載当初、信は「天下の大将軍になる」ことを目指していました。しかし始皇帝の嬴政が掲げる「中華を統一する」というビジョンに触れるうちに共感していきます。私の言葉で言えば「名詞的ビジョン」から「動詞的ビジョン」に変わっていったのです。
日本企業に足りない「動詞的ビジョン」
【出口】動詞的ビジョンとは、「大義」とも言い換えられます。行動を示すということですね。
【入山】その通りです。私は経営学者として、日本企業に最も足りないものは「ビジョン」だと考えています。しかし、そのビジョンが、経営者が「グローバル企業になりたい」という名詞的ビジョンでは、組織のメンバーに共感が生まれないんですよ。
今世界で革新を起こしている企業は、「世の中をこうしたい」「社会をこうしたい」という、動詞的な行動を明確に示すビジョンを持っています。たとえばFacebookのビジョンは「コミュニティをつくる」というもので、「つくる」という動詞があります。出口さんのおっしゃる行動を示す大義ですよね。動詞だからこそ、それがフォロワーの共感を呼ぶと思うのです。
【出口】その話で思い出したのが、グローバル企業のトップにインタビューすると、会社のビジョンとSDGs(持続可能な開発目標)が重なっているケースが多いということ。社会課題の解決が会社のビジョンになっているのです。
【入山】わかります。世界のイノベーティブな“いい会社”もそうです。
【出口】全世界で2030年をゴールとしたSDGsという大きな試みがなされている。そういう大きなうねりの中で、自分たちの会社は何ができるのかということをグローバル企業のトップは意識している。一方で、日本企業のトップは「来年はこれだけ儲かる」といった話ばかりです。大きいビジョンがない。いくら羌瘣のような人材がいても、組織が機能しなければ立ち行きませんよ。
早稲田大学ビジネススクール准教授
慶應義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号取得。2013年より現職。
出口治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
京都大学法学部卒業。日本生命ロンドン現地法人社長・国際業務部長を歴任。2006年ライフネット生命保険創業。18年より現職。