最終黒字を維持できるうちに、リスク事業を見切り

1月17日、電機大手の株式会社日立製作所(日立)が英国アングルシー島における原子力発電所の建設プロジェクトを凍結すると発表した。これに伴い、2019年3月期に日立は約3000億円の特別損失を計上する。親会社の株主に帰属する当期利益は、これまでの予想の4000億円から1000億円に減少する見通しだ。

先行きは不確実であり、3000億円の特別損失計上のマグニチュードは無視できない。同時に、長期的な事業戦略への影響を考えると、最終損益が黒字を維持できるうちに同社がリスクの高まった事業に見切りをつけたことが重要だ。

今回の発表の背景には、日立がエネルギー関連事業のビジネスモデルの変革に取り組んでいることがある。それができるのは、同社の経営陣が冷静に自社の経営環境を見極め、リスクと収益のチャンスを長期的な視点で分析してきたからだ。英原子力発電所建設プロジェクトの凍結は、英断といってよい。

実際、英原子力発電所プロジェクトの凍結期待から、日立の株価は上昇してきた。今後、日立がどのように海外におけるエネルギーやインフラ関連の事業を進め、安定した収益基盤を獲得していくかは、他の企業の経営にも参考になるだろう。

日立製作所が英西部アングルシー島で計画していた原子力発電所建設の予定地。原発2基をつくり、2020年代半ばの稼働をめざしていた。(写真=AFP/時事通信フォト)

「社長直轄の案件だから、失敗はできない」

英国における原子力発電所建設事業の凍結を日立が発表したことは、経営者の役割を考える良いケーススタディーだ。経営者の役割とは、企業(組織)全体の進むべき方向を示し、経営資源の再配分を行うことだ。そのためには、個々人のこだわりや思い入れなどの主観を排し、客観的かつ長期的な目線で将来の展開を見通すことが求められる。まず、この問題を抑える必要がある。

これが口で言うほど容易なことではない。なぜなら、多くの場合、私たちの意思決定は自分自身の“コミットメント”に大きく影響されるからだ。コミットメントとは、責任をもってプロジェクトなどに取り組むことだ。責任を果たすために、わたしたちは入念に準備(プロジェクトの収益性のシミュレーションや市場・経済動向のリサーチ)などを行う。準備に手間をかければかけるほど、プロジェクトへの思い入れは強くなる。

特に、意思決定権をもつ人物が強く関与している場合、組織全体でそのプロジェクトへのコミットメントは強くなりやすい。「社長直轄の案件だから、失敗はできない」という思い入れは、よい例である。

実際、日立は原子力発電事業にコミットしてきた。その背景には2つの要因がある。まず、リーマンショック後、同社は重電分野を重視した。その中で、新興国などでの需要を取り込むために原子力発電事業が重視された。つまり、原子力発電事業は日立が構造改革を進め、世界的に競争力あるインフラ企業としての事業基盤を整備するために重要だったのである。