親と距離を置きたがる思春期の子どもとはどういう親子関係を築くべきなのか。児童精神科医の舩渡川智之さんは「友だちのように仲の良い親子は、一見理想的だ。しかし、養育する側とされる側、それぞれの立場の違いを感じないと子どもの自立心はくじかれる。また、親に対して絶対服従を強いる、逆に親が子どもの言いなりになるという関係も、自立の妨げになる」という――。

※本稿は、舩渡川智之『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)の一部を再編集したものです。

自然の中を歩く家族
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思春期の心身の発達

思春期は心身の発達過程によって、10歳頃から14歳頃までの前半と、14歳頃から18歳頃までの後半にわかれます。

14歳くらいまでに母親と距離を置くようになる思春期前半は、親から離れていく時期です。

小学校高学年から中学校にかけて、それまで母親べったりだった子どもが急に行動をともにしなくなり、母親を驚かすことがあります。友だちといるときに親に声をかけられるのをいやがったり、外で会っても気がつかないふりをして通り過ぎたりします。

この時期、子どもにとってなにより大事なのは同性の仲間です。親との関係よりも同性の友だちとの関係を重視し、遊びや活動に没頭します。

親の価値観より仲間の価値観が優先されるので、多くの親は「言うことを聞かなくなった」と嘆きます。

子どもは親と距離を置きたがり、友人関係に介入されることを嫌います。また、仲間から脱落することを極度に恐れ、トラブルを避けようとする回避行動がひきこもりや不登校につながることもあります。

【図表1】思春期は友人との関係が課題に
出所=『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)P31 イラスト すずきえりな

他者の視線を気にする高校生

高校生になるとさらに「私」に過敏になる思春期後半は自我の確立期です。いわゆる「自分探し」をしながら自分の土台を形作っていきます。同時に社会と渡り合う能力を身につけるために、自分が信頼できる友だちを求めます。

この年代はまだ確固たる自己が確立されておらず、身体は親の身長を越えていても、非常に脆弱な自己を抱えて生きています。このため「私」に対する感覚に過敏で、つねに他者の視線を気にしています。

人からちょっと批判されたり、大切にしている友だちとの関係がうまくいかなくなったりすると自己愛が大きく揺らぎ、孤立感や無力感が増大します。

さらに自己の独立性に対する自信が失われると、自分の考えや感情が自分独自のものでなく、他者から強いられたように感じる「被影響感」や、他者から嫌われているように感じる「疎外感」など負の感情が生じてますます内に閉じこもりがちになります。