数字はインパクト大非常に有効なテク

そして3つ目は、最初に「衝撃的な数字や事実を投げかける」というものです。TEDで英国のある有名シェフは、「これから私が話をする18分の間に4人の米国人が死にます。食べ物が原因で」と話し始めました。確かにこういわれたら、非常に大きなインパクトがあるでしょうし、誰もがどんな話が続くのだろうと興味を持つはずです。

ジャパネットたかた創業者の高田明さんは話が上手ですが、テレビショッピングで「ロボット掃除機ルンバ」を紹介した際の導入部分は見事でした。「ルンバは高いでしょう? でも、きょうは3万円を切りますから」と切り出します。その結果、ルンバは高額だから我が家には関係ないと思っていた人たちに、「えっ3万円切るの」と驚かせ、購買欲を刺激することに成功したのです。数字はインパクトが大きいので非常に有効なテクニックです。

4つ目は「マイストーリーで欠落を語る」ことです。不幸な生い立ちなど重い内容でもいいですし、日常生活での失敗エピソード、学生時代の部活や新入社員時代の失敗や後悔など、ちょっとした欠落でもマイストーリーになります。たとえば、ZOZO社長の前澤友作さんによる2010年の新卒採用セミナーでのスピーチがそうです。

前澤さんは自分の高校の入学式の話から始めました。制服は学ランで同級生はみな黒のローファーなどを履いているのに、自分だけが真っ赤なニューバランスのスニーカーを履いていて浮いたといいます。そして、それはいま振り返ると、社会に対する小さな反抗や抵抗の芽生えだったのではないかと述懐しつつ、その後の人生、会社設立に至る経緯へと結び付けていきました。これから社会に出る若者の心を掴む、巧みな導入だと思います。

最後の5つ目は、最初に「タイトルやテーマを語る」こと。「結論を述べる」と言い換えてもいいでしょう。名スピーカーとして知られるアップル共同設立者のスティーブ・ジョブズ氏はあるスピーチの冒頭で、「きょうは君たちに、私の人生から3つのストーリーを話します。たったそれだけ。大したことじゃない。3つのストーリーです」と述べています。たった3つという内容のアウトラインがわかるので、聞き手は安心して耳を傾けられるのです。

いかがでしょうか。いずれもさほど難しくないと思います。この5つは組み合わせて使っても効果的です。まず問いかけをしてから、マイストーリーを語るなどいろいろなパターンが可能です。スピーチを始めて聴衆が無反応だととても焦るものです。冒頭でうまく掴めると、そのあとは気分的に楽に話ができます。ぜひ5つのテクニックを活用してみてください。

川上徹也
コピーライター
1985年、大阪大学人間科学部卒業後、大手広告代理店勤務を経て独立。2008年、湘南ストーリーブランディング研究所を設立。『あの演説はなぜ人を動かしたのか』など著書多数。
(文=野澤正毅 撮影=小倉和徳 写真=時事通信フォト、iStock.com)
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