「風があることを考えろよ」「最後の箱根を楽しんで走れ!」

●9区

東海大の9区は主将・湊谷春紀(4年)。直前の情報を知らなかったため、僅差で来ることを予想していたが、両角監督から、「1分くらい差が開くぞ」と連絡を受けて、「ラッキー」と思ったという。「最後の箱根を楽しんで走れ!」という両角監督の声を聞いた湊谷は区間3位と好走。東洋大がブレーキとなったこともあり、3分半近い大差がついた。

●10区

東海大の10区郡司陽大(3年)は緊張のあまり、スタート前は涙があふれてきたというが、タスキを受け取った後は力強かった。後半は強い向かい風となり、両角監督から「風があることを考えろよ」と指示が出るなかで、ビクトリーロードを突き進んだ。

両角監督の声かけに応え、10区を快走し、ゴールテープを切った東海大の郡司陽大選手(写真=西村尚己/アフロスポーツ)

郡司は1年時から箱根駅伝のエントリー16人に選ばれているが、3年生の今回が初出場。両角監督は個性を見極めて指導することで知られ、両角は郡司に対していつも厳しい声をかけて育てていた。1年時の箱根は、直前の練習を絶好調でこなしながら、出番はなし。キャリアのある4年生が起用された。レース後、両角監督から「お前を使わなくて良かった」と言われた郡司は、悔しさのあまり、「自分はなんで選ばれなかったんですか?」と噛みついたという。すると両角監督は、あえて「何を浮かれているんだ。お前の名前なんて(選考の中で)一切上がってこなかったぞ」と言ったそうだ。郡司は大きなショックを受けたが、これをバネにした。

「お前のあんな姿を見たのは初めてだ」

その後も厳しい声をかけられることが多かったものの、昨年5月の仙台ハーフマラソンで外国人選手に食らいついたときには、「お前のあんな姿を見たのは初めてだ。やっと殻を破った気がする」と両角監督に褒められ、郡司は親に電話で報告するくらいうれしかったという。今シーズンの郡司は出雲、全日本、箱根と学生駅伝すべてに出場。両角監督から全幅の信頼を寄せられる選手へと大成長した。箱根駅伝をしめくくる10区でも、文字通りの快走を披露した。

指揮官たちはレースだけでなく、普段からさまざまなシーンで選手たちに声をかけている。そして、指揮官の言葉で選手たちは変わる。長年駅伝取材をしているとそうした声かけによる選手の「大変化・大成長」をしばしば目撃する。

駅伝はチーム競技だが、レース中のランナーは孤独だ。ときにはタスキの重みに苦しめられることもある。だからこそ、指揮官たちの言葉が走者の支えになることが多い。今回の箱根駅伝でも、“魔法の言葉”をいくつも聞いた。とりわけ初めて総合優勝を果たした東海大の両角監督の声かけは見事なものだった。

(写真=西村尚己/アフロスポーツ、iStock.com)
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