復路のレース当日の朝、監督から送られたLINEの文面
●7区
7区は主将の小笹椋(4年)。東洋大・酒井俊幸監督は運営管理車から、「(6区の)今西が区間歴代3位。今度はお前だぞ!」と小笹にゲキを飛ばした。
最初の1kmは小笹が2分40秒に対して、東海大・阪口竜平(3年)は2分48秒。8区以降の戦力に不安のあった東洋大は7区終了時までに「できれば1分。最低でも30秒のリードは欲しい」(酒井監督)と考えていた。その思いが小笹のリズムを狂わせたのかもしれない。小笹は後半ペースダウンして、1時間3分45秒の区間3位に終わった。
東海大の阪口は当初4区を予定していたが、調子が上がらず、2週間ほど前に7区にまわることが決まった。レース当日の朝、両角監督から、「自信を持って7区に置いたよ」と坂口のLINEに入る。
その言葉が坂口の大きなエネルギーになった。
直前の指示は、「とにかく最初の5kmだけはリラックスして入れ」というもの。持ち味の攻めの走りを封印して、後半勝負の走りで前を追いかけた。「前半は差が縮まる感じがあまりなかったですけど、15km以降で東洋大との差を一気に縮めることができました」と阪口。
二宮(11.6km地点)で48秒あった差は、大磯(18.3km地点)で19秒差になり、最後は4秒差まで急接近。阪口は区間歴代5位の1時間2分41秒(区間2位)と快走した。
僅差の勝負のなると、運営管理車からの声は競り合う他大の相手選手にも聞こえてしまうため、具体的な指示(○km地点でスパートする、などの戦略)は出しづらくなる。そこで東海大・両角監督はタスキが渡る直前、8区小松陽平(3年)に電話をかけて、「すぐに追いついて、(東洋大を)前に出して、じっくりと落としていくように」という指示を送っている。
「区間賞いけるぞ!」監督の声が自信になった
●8区
小松は両角監督のミッションを忠実に遂行した。
4秒先行していた東洋大・鈴木宗孝(1年)にすぐ追いつくと、その背後にピタリとつく。11月の上尾ハーフでは鈴木が小松に11秒先着しているが、1万mベストは鈴木の29分17秒に対して、小松は28分35秒。1万mのタイムで大幅に勝る3年生が1年生に引っ張らせることはプライドが邪魔する場面だが、小松は勝負に徹した。
前を走る鈴木が苦しげだったのに対して、小松は余裕たっぷり。危機感を抱いた東洋大・酒井監督は「ペースを上げろ」と鈴木に指示する。リズムを切り替えて、小松を引き離そうとするが、効果はなかった。
絶好調男・小松がためこんだエネルギーを爆発させたのは14.6km。遊行寺(ゆぎょうじ)の上り坂が始まる前に初めて前に出ると、一気に突き放した。そして、その差をグングンと広げていく。両角監督の「区間賞いけるぞ!」の声が小松には自信になったという。しかし、「区間新が出るぞ!」の声には、「ウソだ。あおるためだと思った」と信じていなかった。ただ、優勝のために後続との差を1秒でも開けようと最後の力を振り絞り、攻略の難しいコースを1時間3分49秒で走破。小松は自身が生まれた年(1997年)に樹立された区間記録を16秒も塗り替えると、最終的には東洋大に51秒差をつけた。