2019年後半、米国経済は減速が鮮明化する恐れ
今後の展開を考えると、今すぐに世界経済が失速することは考えづらい。世界経済を支えてきた米国では、労働市場を中心に緩やかな景気回復のモメンタム(勢い)が維持されている。減税効果の剥落とともに米国経済が減速することは避けられないが、経済成長率がマイナスに陥る失速は避けられるだろう。
2019年前半は、米国を中心に世界経済は安定感を維持できるだろう。そう考えると、昨秋以降の国内外の株価下落には行き過ぎの部分がある。
日米では政策期待も高まりやすい。2020年の大統領選挙を控え、米国では民主・共和両党が追加減税などの経済対策で歩み寄る可能性がある。わが国では、7月に衆参同日選挙が実施される可能性がある。消費税率引き上げを控え、選挙対策としての景気対策期待は高まりやすい。2019年前半、経済・政策の両面から日米の株価は持ち直す可能性がある。
2019年後半、IT先端企業などのイノベーションや、経済政策などに支えられてきた米国経済では、減速が鮮明化する恐れがある。加えて、米中貿易戦争の激化懸念も高まっている。その中で、アップルなどが新しい取り組みを積極的に進め、イノベーションを目指すことは口で言うほど容易なことではない。
トランプ政権はITのイノベーションをサポートするか?
すでに、わが国の企業業績を支えてきた中国の設備投資の増加ペースも鈍化している。米国経済の減速が鮮明化するにつれ、世界経済全体の景況感が悪化することは避けられないだろう。2020年に入ると、米国経済が失速し、先行き懸念が追加的に高まる展開もあり得る。
このように考えると、アップルのイノベーションが停滞していると考えられることは、今後の世界経済にとって無視できないマイナス材料だ。鉄鋼など重厚長大産業の復興を重視するトランプ政権がIT先端分野のイノベーションをサポートする政策を進めるか否かは、かなり不確実だ。
アップルショック、それを受けた一時的なリスク回避は、先行きに関する懸念を高めている市場参加者が徐々に増えつつあることの表れといえるだろう。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。