九州が拠点のドラッグストア「コスモス薬品」は、特売や割引セールは一切しない。毎日同じ値段にすることが、より安い値段にできる秘密だからだ。どういうことなのか。社是は「純情」という規格外の会社を、ノンフィクション作家の野地秩嘉氏が取材した――。
ディスカウントドラッグコスモス(撮影=藤原武史)

「すっきりしている」ドラッグストア

ディスカウントドラッグコスモス野方店は福岡市西部にある。地下鉄七隈線の橋本駅から歩くと15分の住宅街のなかだ。幹線道路に面しているわけではない。野方店に限らず、同チェーンの店舗は大きな道の1本裏にあることが多い。そのほうが土地代が安く、出店のコストを抑えることができる。

店舗の前に立った第一印象は「すっきりしているな」というものだ。

エントランスの前には「特売」「時間限定セール」といったのぼりは立っていないし、特売品を積んだワゴンも出ていない。一般のドラッグストアの店頭風景とはおよそ違っているのがコスモス薬品のそれだ。

店の中へ入る。天井は高い。そして、陳列棚は一直線の列になっている。大型書店の店内風景のようだ。レジ前に平台はあるけれど、数は一般のドラッグストアよりはるかに少ない。

特売も割引セールもやらない

コスモス薬品 横山英昭社長(撮影=藤原武史)

店舗で待ち合わせた38歳の社長、横山英昭は言った。

「『毎日安い(Everyday Low Price)』のが当社です。のぼりやビラがないのは特売や時間限定の割引セールをしていないからです。ある時間帯だけ商品を安く売るのは全てのお客さまに対して公平ではありません。

ごく短期間に限られた商品のみを安く売るのではなく、あの手この手の販促策をやるのではなく、さまざまな商品をいつでも安心の低価格で販売するのがうちのやり方です。

毎日、同じ値段で安くしていますから、特売のための値札の貼り替えや無駄な陳列替えの作業がなくなります。発注・納品に伴う作業も簡素化でき、物流も平準化することができます。そうして、全体のオペレーションコストを低く抑え、その分、商品を安くします」

確かに並んでいる商品は安い。同社の特徴として、薬品、健康食品だけではなく一般の食品も多く扱っている点が挙げられる。精肉、鮮魚、青果の生鮮三品は扱っていないけれど、冷凍食品もあればアジの開きのような塩干物、ハム、ソーセージといった加工品は置いてある。牛乳、豆腐、パック入りもやし、酒類もある。

つまり、生鮮品だけは他の店を利用すればよく、生活に必要なものはたいてい、揃っている。