“良い問題”を設定できる人がイノベーションを生み出す

問いを立てることを日本人が苦手とするのは、教育の影響も大きいと思っています。誰もが100点を目指し、それが良いという価値観がありますね。そこには日本社会が抱える根深い幻想があると思っています。

空気を読めないことをタブーとし、たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチの絵に「おかしい」と言うと、「それはダメだ」と矯正されてしまう。そんな教育を多くの日本人が受けており、自分の頭で考える習慣が身についていません。

自分で問題設定できないことは、日本からイノベーションが生まれない理由のひとつでもあります。一時期、外部のリソースと連携してイノベーションを起こす「オープンイノベーション」という手法に注目が集まりましたが、日本ではそれほどうまくいっていないようです。

オープンイノベーションとは、設定した問題に対して、外部からソリューションを求めることで生まれます。したがって、そもそも問題設定ができていないのに外部と連携してみたところでイノベーションが生まれるはずがありません。日本では、イノベーションごっこをずっと続けているのが現状なのです。

古い話になりますが、ポラロイドカメラも、「どうして撮影した写真をその場で見られないの?」という問題設定から生まれたイノベーションです。この疑問は、ポラロイド社の創業者であるエドウィン・ハーバード・ランド氏が当時3歳の娘から投げかけられたものですが、この疑問に答えようとするなかでポラロイドカメラは生まれました。

日本に目を向けても、過去にそうした事例はあります。ウォークマンは、ソニーの名誉会長であった井深大氏が、「旅客機内で優れた音質で音楽を聴くには?」という問題設定をしたことから生まれました。このように、いい問題設定ができれば、そこからイノベーションが起きてくるものなのです。

モーツァルトの交響曲が、“負けない”プレゼンのヒントに

クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング』(プレジデント社)

CEOの意思決定の場面に限らず、人文科学の知見やアートで得たセンスをビジネスパーソンが活かせる場面は少なくありません。私の場合、音楽が好きで作曲をすることもあるのですが、これが仕事にいい影響を与えていると感じています。

これまで私はコンペでプレゼンをする機会が何度もありましたが、実は負けたことはほとんどありません。また、プロジェクトの最終報告で炎上をしたこともない。これは、「どういうプレゼンをすると刺さるか」を押さえた結果だと捉えています。

プレゼンにおいて大切なことは、聞き手のアテンションを維持することにあります。流れをイメージしたときに、聞き手が話にスムーズに入り、「もう1回聞きたい」と思わせる。実はこれは作曲をするときと同じ感覚です。

とくに、30分を越えるプレゼンを構成する際にはクラシック音楽で培った直感が活きてきます。たとえばモーツァルトの交響曲第40番は30分を越える楽曲ですが、全体が“かたまり”として非常に調和が取れています。