不確実な時代に必要なのは、問いを解く力ではなく、問いを立てる力だ。その力を得るには「哲学」が大きな助けになる。いまこそ偉大な哲学者たちの知恵を借りよう。今回、哲学史を4つのカテゴリにわけて解説する。第1回は「西洋哲学 古代編」だ――。

※本稿は、「プレジデント」(2016年12月5日号)の掲載記事を再編集したものです。

高校の授業で耳にしたことがある哲学者の名前。試験対策で代表的な著書名くらいは覚えたけれど、その内容や歴史的意味となるとチンプンカンプン。小難しいし、役に立ちそうもないし、とっつきにくい。そんな西洋哲学の流れを古書店主の日比野敦さんに聞いた。

――欧米のビジネスシーンでは、哲学は教養として求められているそうです。

写真=iStock.com/selimaksan

例えば、ピケティが『21世紀の資本』でも扱った格差問題。これは紀元前からの問題で、プラトンも「諸悪の根源は不平等にあり」と言っていますし、アリストテレスも格差が原因で反乱が起きることをすごく警戒している。今も昔も同じ問題を抱えているのです。

古代ギリシャの時代の哲学者は、「世界」についてひたすら考えました。〈万物の根源は水である〉〈万物の根源は数である〉とかは聞いたことがあるでしょう?〈万物は流転する〉と言ったのがヘラクレイトス。自然界は絶えず変化するということですね。赤ん坊が生まれ、成長して大人になり、老人になり、死ぬ。でも、同時代のパルメニデスは、そんなことはない。リンゴはどんなに細かく切ってもミカンではなくリンゴ。〈万物は不変である〉と言っています。どちらが正しいと思いますか?

――どちらも正しいような。

では、モノは何からできていますか?

――原子ですよね?

最新の科学理論では、正確には原子ではないのですが、でも、紀元前460年頃に生まれたデモクリトスは、どこまでも細かくしていくと、分割不可能な単位になるのではないかと考え〈万物の根源は原子である〉と言っています。

――顕微鏡もない時代に、思考だけで到達するってすごいですね。

ビジネスの話題だと、信用取引を発明したのは、紀元前624年頃に生まれたタレスだと言われています。哲学者は科学者でもあったので、オリーブの豊作を予想して、収穫前に搾油機を全部仮押さえして、大儲けしたそうです。