若い女子がこうした恋愛ポエムにひきつけられるのは、なぜだろうか。編集者はこう分析している。

ニャン『好きな人を忘れる方法があるなら教えてくれよ』(KADOKAWA)

「読者にとって著者は言いたいことを代弁してくれる人。『わかる』『共感』というのが、彼女たちにとって重要なのです」(植田さん)

「読者層である若い世代は、何かに悩んだときの相談先はSNSだと考えている人が多いようです。“リア友”相手だとカッコ悪い、恥ずかしいという思いがあり、SNS、しかも裏アカウント(本名や実生活での知り合いとつながらないアカウント)のほうが本音を言える。著者には、そうしたアカウントから恋愛相談のリプライやDMも多く届くそうです」(間さん)

悩み多き時期に、自分の言いたいことを代弁してくれる本が人気を博すのは世の常。若年層女性を対象にしたヒット作といえば、2000年代初頭にヒットした『Deep Love』(Yoshi/スターツ出版)、『赤い糸』(メイ/ゴマブックス)などの“ケータイ小説”がある。メンヘラ恋愛本とケータイ小説は類似点が多い。

多くの書き手は読者と同世代の女性。主観が多く、一文は短く、顔文字や半音(ゎ)といった「特殊な表現」を共有している。そして思春期の女子の精神的な不安定さを言語化している。そうした不安定さは、ケータイ小説全盛期には「病み」と呼ばれた。

「女子の8割がメンヘラ」の時代

ただし、同じ「病み」をテーマにしていても、当時人気だったケータイ小説作品が“主人公である少女のいじめや妊娠、自殺未遂”といった悲劇的で、大半の読者には当事者性の薄い内容だったのに対し、メンヘラ恋愛本が扱うのは「うまくいかない恋愛」という誰しもが通る普遍的な悩みだ。

「『好きな人を忘れる方法が~』の中でニャンさんが『女子の8割がメンヘラ』と書いているのですが、今はまさにそういった時代。もちろん度合いは人それぞれですが、若い子にとっての“メンヘラ”という自己認識はそれぐらい珍しくないという前提がある。『こういう本を買っている私もカワイイ』というぐらいまで、メンヘラという概念が変化しているんです」(間さん)

「恋愛で悩む(病む)」という普遍的な要素と、SNS時代の特色をつかんでヒットとなったメンヘラ恋愛本は、今後どうなっていくのか。KADOKAWAでは、メンヘラ恋愛本を含むSNS発の若い世代向け新レーベル「@night」を今年5月に立ち上げた。書店側もメンヘラ恋愛本の存在を認知し始め、売り場でフェアを展開する店舗も出てきたという。悩める女子を救う本は、今後も増え続けていきそうだ。

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