「年内に改憲の発議、来年に国民投票」は絶望的
安倍首相が北方領土の問題に前のめりになるのと反比例するように、憲法についての発信が減っている。
安倍氏が自身の首相在任中に憲法改正を実現しようと考えていることは論をまたない。ことしの前半には、年内に改憲の発議をして来年に国民投票に持ち込もうとしているとされていた。
ところが9月の自民党総裁選で3選された後、明らかにトーンダウンしている。新しく自民党憲法改正推進本部長に就任した下村博文氏が、改憲論議に乗ってこない野党を「職場放棄」と発言して野党を刺激するなどの「失策」もあったが、安倍首相自身が強引に推し進めようという空気を、あまり感じられなくなったのも事実。年内の発議は既に絶望的。来年中の国民投票も極めて難しい状況になっている。
「歴史に名を残すような政治家になりたい」
「安倍氏は改憲を後ろに回し、北方領土交渉を優先させようとしている」
安倍首相に近い自民党関係者は、こんな見立てをしたうえで、解説を続ける。
「歴史に名を残すような政治家になりたいと、安倍氏は考えている。言い換えれば教科書に名が載るような実績を上げたい。それが憲法改正だった。しかし2島返還が現実味を帯びてきた。こちらも実現すれば教科書に載るような偉業。優先順位を変えることはあり得る」
「2島返還」で大筋合意し、参院選になだれ込む
安倍首相は来年6月に大阪でG20首脳会議が行われる際、プーチン氏と「2島返還」で大筋合意し、参院選になだれ込むシナリオを描く。そこで衆院を解散し、衆参同日選に持ち込むことも念頭に置く。
2島返還には、本来なら安倍首相を支える保守層から「国後、択捉の2島はあきらめたのか」という批判が出ることも予想される。しかし「国後、択捉はあきらめない。まず2島を先行させるだけだ」と訴えて選挙に臨めば必ず勝てると安倍首相は信じている。実際、各種世論調査でも「2島先行」への国民の評価は比較的高い。
仮に参院選で圧勝し、改憲勢力が衆参で3分の2を維持したら、そこから改めて改憲に取り組むつもりなのだろう。