――読書とは何か

【松本】僕は、基本的に本は読み終えたら捨てます。でも、絶対に捨てられない本もあるので、自宅の書棚に「繰り返し読みたくなる本」だけを保存しています。『道をひらく』もその中の一冊。

この本は、仕事で悩みを抱え、その糸口を探そうとして読むわけではありません。書棚の前に立って、なんとなく気になって、パッと開いて読むんです。すると、「ああ、そうだったな」と幸之助さんの考えに改めて共感したり、自分を戒めたり、逆に励まされたりする、数少ない僕の座右の書と言えるでしょう。

書棚の他のラインナップは作家で言えば、司馬遼太郎、山崎豊子、浅田次郎、フィリップ・コトラーの作品の一部。あと漫画の『じゃりン子チエ』。僕ね、この漫画大好きなの(笑)。

普段、僕はたいてい本を20冊くらい並行して読んでいますが、前述したように、読んだら処分します。なぜ、そうするか。捨てるつもりでないと真面目に読まないし、頭に叩き込めないから。「1回きり」という覚悟が必要なんです。1度読んで書棚に置くという貧乏根性だと、読み方が甘くなります。捨てた本でも、後になってまた読みたくなったら、また買えばいい。

【小宮】出張の日以外は、毎晩欠かさずに『道をひらく』を読んでいます。夜、自宅の部屋のデスクで日記を書き、2~3篇を読む。所要時間は2~3分。それがここ27年の私の就寝前のルーティンです。1ページ前から順に読んでいきます。

さすがに暗唱するまではいきませんが、講演などをする際、聴衆に語りかけることが多いのはこの本のエッセンス。何度も繰り返し読んでいるのに、不思議と毎回発見があります。自分が仕事の経験を積むと、「松下さんが書いていたことは、このことだったのか」と文章の深い意味を理解することも少なくありません。

私は多読家ではありません。月に数冊を、線を引きながら精読熟読し、気に入った本を繰り返し読むタイプです。平べったい知識はネットの情報で十分ですし、検索すればいくらでも欲しい情報は出てきます。しかし、講演やコメンテーターとして出演しているテレビ番組などでは、あらかじめ頭の中にインプットされている知識や理論しか披露できません。だからこそ、『道をひらく』を含む貴重な一冊一冊の本の中身を、頭に入るまで熟読する必要があるのです。