――初めて読んだときの印象
【松本】『道をひらく』との出合いは、大学院を卒業して入社した伊藤忠商事時代でした。入社数年後の30歳頃だったと思います。ちょうどこの本が売り出されていて、書店で手に取りました。24歳で社会人になって、会社の先輩を見ていると、課長は部長に、部長は本部長に、本部長は常務に、ゴマをすっている(笑)。どうやら社長になることが一番楽しいのだなと悟り、仕事の前後によく勉強しました。
大学は経営とは関係ない農学部出身。まずは自分の「インフラ」をつくろうと、最初に法律と財務・会計と英語、学校に行く時間がないから、本を読んでこの3つを重点的に学びました。『道をひらく』もそうした社長修業期間に読んだ本のひとつです。ページをめくって読み進めると経営者のあるべき姿、人としてあるべき姿を教えていただいていると感じました。経営というものに真剣に打ち込んでいる方の最終的な着地点はこうした普遍的な真理になるのだと。
それに引き換え、幸之助さんと対比するのは酷ですが、最近の若手の経営者はどうしても俗世間的な世界に目が向いてしまうようです(笑)。少し業績がいいと飲んだり食ったり、ゴルフ、パーティーなどに遊びに出かけたり。いろんな人との交流は悪いことではないけれど、どうも人間追求の精神が不足し、会社の経営というものに対する責任感が低いと感じることもあります。
顧客、取引先、社員、社員の家族、投資家、株主……。そうした人々に対する責任を背負っているという自覚をきちんと持つことが、経営者の必要条件。ちゃらんぽらんに経営して、自分の快楽ばかりを追いかけている人は心を入れ替えるためにも、この『道をひらく』を読むべきだと思います。
【小宮】新卒で入社した東京銀行(現三菱UFJ銀行)から、ある経営コンサルティング企業に転職したタイミングで、『道をひらく』を初めて読みました。職場を変えて、銀行という「看板」なしに生きていこうと決心した私は「生き方の指針」「バックボーン」を身につけなければいけないという気持ちが大きかったのです。東京銀行の新人時代、松下さんの『社員心得帖』を読んで、働き方の根本のようなものに触れたという印象を持っていたので、もっと松下さんの考えを知りたいと感じたのです。東京銀行時代の20代の頃、上司との関係で悩んだことがあり、思想家・安岡正篤さんの『論語の活学』(プレジデント社)などを読みました。松下さんの考えはその論語にも通じる哲学を感じました。転職のときだけでなく、自分の会社を設立してからもこの本は私のバイブル的存在であり続けています。