トランプとサウジの「蜜月関係」

サウジとトランプ政権、ムハンマド皇太子とトランプファミリー、特に娘婿のジャレッド・クシュナー氏との関係は非常に深い。恐らくトルコは事件の全容をつかんでいるが、すべてを公表するとトランプ政権がダメージを被る恐れがある。そこでエルドアン大統領とトランプ大統領の間で「ディール」が行われて、「ここまでは言わざるをえない。そこから先は伏せておくから、代わりに輸入制限を緩めてくれ」というような交渉があったと私は推測している。

「すべての真実を明らかにする」と高らかに宣言しておきながら、エルドアン大統領は「ムハンマド皇太子」の名前を決して口にしていない。それはサウジとの決定的な対立を避けたり、あるいは経済援助を引き出したりするための駆け引きなのかもしれないが、アメリカに対する“配慮”も多分にあると思われる。

今回の事件の登場人物は不正直者ばかりだが、ある意味で一番の正直者はトランプ大統領である。トランプ大統領は「喧嘩の殴り合いで死亡した」というサウジの言い分を一時「信用できる」とした。さらにサウジとの兵器取引に言及して、「仮に何らかの形でサウジに制裁を科すにしても、60万人の雇用に相当する1100億ドルの規模の仕事をキャンセルすることがないように望む」と言い切った。

アメリカという国は一貫して自由と平等、民主主義の素晴らしさを世界に説き、自らの価値観としてこれを世界に輸出してきた。非人道的な国や非民主的な国に制裁を加えてきたのだ。ところがトランプ大統領は「60万人の雇用がかかっているから、サウジへの制裁は慎重に」と言ってのけた。つまり地獄の沙汰も金次第というわけで、この発言で理念国家アメリカの存在は完全に吹き飛んでしまった。

心の中で「サウジへの制裁は慎重にしよう」と思うのは構わない。しかし「雇用の問題があるから」とか「武器を買ってくれるから」とあからさまに口にするのは、正直不正直を超えて、やはりアメリカの指導者としての適格条件を欠くと言わざるをえない。

もっと言えば、アメリカの雇用や軍事産業にマイナスに作用する、というのは表向きの理由でしかない。サウジ制裁に乗り気でない本質的な理由はトランプ大統領が口にしないトランプファミリーとサウジの蜜月関係にあると見るのが正解なのだ。

(構成=小川 剛 写真=AFLO)
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