もちろん、20代から準備をして30代で独立、ということもできますが、でも、それをやってしまうのは、せっかく手に入れた、そしてそこでしか学べないことがたくさんある会社員という立場を早々に手放してしまうことになり、もったいないことだと思います。

会社での仕事は、楽しいことばかりではないでしょう。でも、そこでしか学べないこともあるので、20代、30代は修業期間と思いながら、少しずつその先の人生の準備をしておくのがいいと思います。

50代以降の「選択肢」を増やすために

もちろん、「50代以降も会社に残る」という選択肢もあります。先輩たちと話していてよく思うのは、マネージメントが好きな人と、そうでもない人がいるということです。マネージメントが好きな人は、会社に残って腕を振るったほうが楽しいと思いますし、部下を育てたり、チームを率いたりすることにやりがいを感じる場合もあるでしょう。

水代優『スモール・スタート あえて小さく始めよう』(KADOKAWA)

ただ逆にいうと、みんながみんなそうだとは、話を聞いていて思えません。たとえば、新聞記者として働いていて、事件を追って原稿を書いて、表現することが好きなのに、デスクで部下の下手な原稿にうんざり……「むしろ僕が取材に行きたい!」と思うようなタイプの方もいますよね。「50代で独立を」という話は、あくまでそのように「プレイヤーとしての自分のほうが楽しい」と思える方にお伝えできればと思っています。

料理が作るのが好きすぎて、シェフになったはずなのに、いつの間にか何店舗もマネージメントをする立場になっていることもあります。そんなときは、「料理を作っていたいのか? マネージメントが好きなのか?」を改めて考えてみてもいいと思うのです。

もちろん、独立したら今の給料より下がると思います。でも、「50~60歳(もしくは65歳)まで稼いで定年後に悠々自適」と「50~80歳まで30年間、元気に、みんなに頼られながら働いて、生涯年収はだいたい一緒」の、どちらが良いか――それは人によってそれぞれだと思いますが、そのような選択肢があるということは意識しておきたいです。

仕事のやり方は日本中どこでも同じ

一方で、「わりと気分良く会社員でいられる間は、会社員でいたほうがいい」と思う理由は、会社でなら、日本で何かをしようとするときに必要になるテクニックを十分に学べるからです。

報告・連絡・相談、根回しの仕方、稟議書の書き方に通し方、世代の異なる人とのコミュニケーション……こういったものは、どこの会社でやっていくのにも必要なライフスキルだし、どこの会社にいても学べます。

10年もいれば立場が変わるので、同じ根回しの仕方でも、違う立場での振る舞い方も身につきます。