「採用ルール廃止」で好転させる大学教育

教育現場においては、就活ルール廃止は、<就活生の集団欠席>問題を緩和させます。同じ時期に、一斉に就活が行われているために、「講義の欠席が極端に目立つようになり」、多くの大学教員がぼやいているように「4年前期は、ゼミにならない」問題が発生しているのです。就活が行われる大学3年生から4年生は、専門的な学びを深めていく大事な時期です。

これからの就活は、就活生それぞれの成長と準備にカスタマイズされる形で実施されるべきです。特に鍵を握るのが、夏休みや春休みなどの大学のまとまった休みを効果的に使った「ターム制」での採用活動とインターンシップです。採用活動の開始時期が自由化したからといって、年中採用活動を続けるのではなく、大学生と採用担当者の「アポイント」をより丁寧に行っていくようにするのです。面接も人事担当者の都合だけで日程を決定するのではなく、大学や大学生の事情を考慮しながら、行われていくべきです。

また、現行の新卒採用で気になるのは、就活生一人に対して、長期にわたり選考が行われていることです。会社説明会、エントリーシート、それから個別面接、グループ面接、さらに複数回の個別面接後に、最終面接を行い、内々定を出している企業が多く見受けられます。

その間に、大学生は単位を取得していかなければならないので、人事担当者も、就活生も、双方に疲弊しているのです。

<健全な関係>という理想を掲げても、企業は「採用」活動はしなければなりません。「大学は平日講義があるので、休日に採用活動を行ってください」というのも、迷惑な話ですよね。休日出勤をする社員が増えて、ご家族に負担がかかるというのも、おかしな話です。

「就活ルール」廃止を議論のきっかけに

経団連・中西会長の「就活ルール」廃止の表明には続きがあります。記者会見での発言要旨(定例記者会見における中西会長発言要旨/2018年10月9日)には、こんなことが書かれています。

「今後の議論において重要なことは、大学の教育の質を高めることである。学生の学修時間が世界的に見て不十分との認識をもっており、<略>大学教育に関する本質的な議論をしたい」

「他方、企業側にも反省点はある。すでに多くの企業が新卒一括採用のみならず、中途採用などを行っているが、学生にどのような勉強をしてほしいのか、入社後のキャリア形成をどう用意しているのか、などといった具体的な事柄について、これまで企業から社会全体に十分に伝えてこなかった。今後の採用のあり方についても議論していきたい」

この機会に、議論を重ねましょう。ルールは元来、人々の行動を統制し秩序づけますが、それによって変化ではなく固定や停滞も生み出します。

「内定」獲得主義からの離脱を

「就活ルール」廃止は、これまでの新卒一括採用との決別表明を意味します。だからといって、新しいルールを作ろうとするのでは、「新卒採用」は人材獲得争奪の堂々巡りに陥ります。

ITプラットホームが充実化し、パラレルキャリア、マルチキャリア、柔軟にキャリアを変えていくプロティアンキャリア等、働き方も多様かつ重層的になった今、この社会の変化に、「新卒採用」も<ようやく>対応していくことができるタイミングを迎えたのです。

目先の(自社だけの)利益を語るのでなく、この先のより望ましい社会の姿をみていきたいものです。この国を担っていく次世代の輩出に、本当に必要なことを、徹底的に尽きつめ、議論を重ねていかなければなりません。

時代が変化し、大学に求められている社会的な役割も変わる今このタイミングで、就活ルールが廃止されたことは好機として捉えるべきです。「内定」獲得主義からの離脱を図り、人生100年時代を生き抜いていく、次世代を育てる重要な社会的使命を担う大学教育の質を高める外発的なきっかけを与えてくれました。

田中研之輔(たなか・けんのすけ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1976年生まれ。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民――アメリカ国境を越えた男たち』(岩波新書)など他十数冊。
(写真=時事通信フォト)
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