過去の取引実績を求める時点で出遅れている

――将来性の高いスタートアップには世界中から多くの投資が集中します。その中で日本のCVCは、どのように存在感を発揮していけばいいでしょうか。

アピールする以前に、将来性豊かなスタートアップと出合えていないのが現実です。シリコンバレーはオープンなようでいて、じつはインサイダー(内側の人)にならないと有益な情報が回ってこない閉鎖的な世界です。魅力的な投資先と出合いたければ、まずインサイダーにならなくてはいけません。

最新機器が売られるガジェットショップ サンフランシスコにある最新ガジェットショップ「b8ta(ベータ)」。ベンチャー企業などがつくった商品が並ぶ。電動のスケートボードや、スマホと連動する電動歯ブラシ、手の動きに反応するスクリーンなど見たこともない商品に触れることができる。

ところが日本のCVCは、シリコンバレーに来ても日本人がいるところばかりにいってしまう。たとえば米国には有名なアクセラレーター(スタートアップ支援企業)がいくつかあります。トップはYコンビネーターで、日本の大学にたとえれば東大です。そこに入れなかった起業家は、テックスターズや500スタートアップスにいく。ここは早慶。そこにも漏れた起業家はMARCHクラスのアクセラレーターに落ち着きます。じつはMARCHクラスのアクセラレーターにとって、日本のCVCはいいお客様。居心地がいいから、日本のCVCはついそこに通ってしまいます。しかし、トップクラスの起業家には、なかなかそこで出会うことはできません。本当に優秀な起業家と出会いたければ、日本人がいないところにいかないとダメです。

――出会えたら、どうやって関係性をつくっていけばいいですか。

手を組みたいスタートアップの製品を使うことが大事です。スタートアップのピッチにいくと、「うちのサービスはグーグルで使われている」とアピールする会社が案外多い。有名な企業がファーストカスタマーになってくれたことは、彼らにとっていい宣伝材料なのです。一方、日本企業はスタートアップの製品をまず導入しません。どちらに親近感を覚えるかといったら、自社製品を使ってくれる会社のほうです。

アメリカのCVCは、自分もベンチャーのエコシステムの一員で、一緒に成長しようという意識が強い。だからまだ実績のないスタートアップの製品であっても、積極的に使おうとします。日本のCVCも、一緒にエコシステムをつくる意識を持ったほうがいいでしょう。

――宮田さんは大企業とベンチャーのかけ橋としてさまざまな取り組みをされています。日本の大企業の可能性について、どう考えていますか。

18年3月にパナソニックと「BeeEdge」を始めました。これは今日お話ししたことと逆のアプローチです。パナソニックは社内のR&Dにお金をかけていて、可能性を持った技術がたくさんある。ただ、それを外に出すノウハウに欠けています。そこで私たちと組んで、それらの技術を事業化するスタートアップに出資をします。また18年4月には任天堂と組んで、「Nintendo Switch」を活用した新たなテクノロジーを発掘するプログラム「Nintendo Switch+Tech」を始めました。ただ、両社のように、世界が注目する技術やサービスを持っている企業はそう多くない。基本的には会社の外にそれらを探しにいくことになるでしょう。

宮田拓弥(みやた・たくや)
スクラムベンチャーズ 創業者兼ゼネラルパートナー
1972年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了後、日米でソフトウエア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。事業をmixiに売却し、mixi America CEOを務める。2013年にサンフランシスコにスクラムベンチャーズを設立。これまでに40社を超えるスタートアップに投資する。2018年にはパナソニックと新事業を創出する新会社を設立、任天堂との共同プログラムも開始した。
(撮影=大槻純一、プレジデント編集部)
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