成績優秀者は「特別」ではなかった

できるスタッフは「特別だからできる」のではなく、「やるべきことをきちんとやっている」からこそできる人になるのです。それを知ったことで、ほかのスタッフも「自分もやるべきことをもっとしっかりやろう」と考えるようになったことが、何より大きな収穫でした。

営業の世界はどういうわけか、できる人を「特別な人」扱いする傾向があります。「あいつは特別だから」で済ませてしまえばそこから何も学ぶことはできません。しかし、「なぜ彼はこれほどの成果を上げることができるのだろう?」と、素直な気持ちで「なぜ」を問いかければ、そこからたくさんの学びや活動のヒントを得ることができるのです。

それは評価する側にもいえます。A社はこれまで営業スタッフを「できる」とか「できない」と評価することはあっても、「何ができるのか?」「なぜできるのか?」を問いかけることはありませんでした。

「できない」も同様です。何ができないのか、なぜできないのかを知ることなしに成績だけを見て、「あのスタッフはできる」「あのスタッフはできない」と評価していただけでした。

「そういうもの」と諦めている課題を問い直す

A社は「なぜ成果にバラつきがあるのか?」という問いを立てたことで、できるスタッフの仕事を標準化・見える化に成功しました。そして標準化・見える化したことによって、スタッフ全体の営業力を引き上げることに成功したのです。

トヨタが「レクサス」の販売店を日本でゼロから立ち上げた際、目標にしたのは「1人のゼロもつくらない」でした。サービス業においては10人の社員のうち9人が素晴らしい仕事をしても、もし1人がゼロの仕事をしてしまえば、顧客の店への印象はゼロに近づいてしまいます。それではいけない、みんなが素晴らしい仕事をしてこそ「レクサス」というブランドを確立することができるのだ、というのがトヨタの考え方なのです。

営業において成果に差がつくのはしかたのないことですが、その差を「個人の能力差」に求めてしまうと何の改善もできません。これを改め、成果に差がつく理由を「活動のしかたや提案ポイント」などに求めれば、いくらでも改善ができるし、みんなを「できる」へと変えていくことも可能になるのです。

身の回りの「そういうものだ」と諦めている課題について、「なぜだろう?」と問いかけてみると、思いのほか解決可能なことがあるはずです。

桑原晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。著書に『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』(文響社)、『トヨタ 最強の時間術』(PHP研究所)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『1分間バフェット』(SBクリエイティブ)、『伝説の7大投資家』(角川新書)など。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
JALの地上職員は小さな「っ」を使わない
銀座クラブママ証言「デキる男」の共通点
人の気持ちがわからない人の致命的理由3
コンビニの「サラダチキン」を食べるバカ
バカほど「それ、意味ありますか」と問う