「売れる本じゃないんだ、買わせる本をつくるんだ」

週刊新潮の成功に、文藝春秋や講談社も名乗りを上げ、「週刊文春」や「週刊現代」が創刊される。週刊現代は読者をサラリーマンに定め、彼らが好きなものは「色、カネ、出世」だとして部数を伸ばしていく。こうして新聞社系を出版社系が凌駕し、週刊誌新時代を築きあげていった。

齋藤は、佐野のインタビューにこう答えている。

「人間は誰でもひと皮むけば、金と女と名誉が大好きな俗物です。僕も狂的な俗物です。実際にはもうダメだけど、いまでも女は大好きです。食い意地もきたない。『週刊新潮』ではそれをやりたかったし、いまでもやりたい」

日本に一つしかない名器でグレン・グールドのトルコ行進曲を聴きながらも、人間の心の奥底ではどす黒い欲望が渦巻いている。お前が欲しているのはこういうことだろうと、取りだして見せてやればいい。

齋藤語録をいくつか。

「食べることに関心を持たない人は、良い編集者になれない」「面白い雑誌をつくるには面白い人間になれ」「自分の読みたいものをつくれ」「売れる本じゃないんだ、買わせる本をつくるんだ」「タイトルがすべてだ」「人間は生まれながらに死刑囚」

「おまえら、人殺しのツラが見たくないのか」

そしてこうもいっている。「編集者ほど素晴らしい商売はないじゃないか、いくら金になるからって下等な事はやってくれるなよ」。

写真週刊誌「FOCUS」を創刊したのも齋藤である。アメリカの「TIME」のような雑誌をつくろうとしたようだが、齋藤が殺人犯の顔写真を載せることにためらっている編集部員に向かっていったのは、「おまえら、人殺しのツラが見たくないのか」であった。

その後、同誌をそっくり真似た「FRIDAY(フライデー)」が創刊され、FF時代を築くのだが、齋藤は誌面に不満だったようだ。部数が低迷し始めたころ、担当の役員にこういったそうだ。

「週刊新潮はアタマを使わなきゃつくれないが、FOCUSはバカでもつくれるんだよ。それができない、どうなってんだ」(松田宏「齋藤さんの思い出」より)

創刊3年近く経っても売れ行きが芳しくなかった「新潮45+」を見かね、齋藤が紙面刷新に乗り出した。佐野によると、そのときスタッフを集めて雑誌についてこう語ったという。

「雑誌というものの根本は、なにもいまさら講釈するつもりはないが、他人のことを考えていては出来ない。いつも自分のことを考える。俺は何が欲しいか、読みたいか、何がやりたいかだけを考える。これをやればあの人が喜ぶ、あれをやればあいつが気に入るとか、そんな他人のことは考える必要はない」