トヨタ自動車とソフトバンクは共同で自動運転やカーシェアリングなどを手がける新会社を設立する。時価総額で1位と2位の日本企業による異色の提携だ。期待は大きいが、経済ジャーナリストの安井孝之氏は「孫社長の『クルマは半導体の塊になります。ねじやボルト、ナットはなくなる』という発言が気になる」と指摘する――。
握手を交わすトヨタ自動車の豊田章男社長(右)とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。(写真=時事通信フォト)

孫正義社長は「『マジか』と2回思った」

トヨタとソフトバンクの提携はソフトバンクの孫正義社長が「『マジか』と2回思った」と言うほど、孫社長自身も驚くものだった。半年前にトヨタから若手中心のワーキングチーム立ち上げの打診がソフトバンクにあり、夏には豊田章男社長とのトップ会談ももたれた。

孫社長の驚きには伏線がある。4日の共同記者会見でも豊田社長が触れたように、20年前にソフトバンクがトヨタに提案したインターネット販売システムを当時、課長だった豊田社長は断った。ウェブサイトの「Gazoo.com」を立ち上げ、トヨタ自身が同じようなサービスを始めようとしていたからだ。孫社長は当時を振り返り、「がっくりした」と笑った。

自動車業界は「100年に一度の大変革期」と言われる変化が起きている。電動化や自動運転の進展が、業界を揺さぶる。自動車業界の変化はまさに「IoT(モノのインターネット)」が引き起こしている。IoTが目指す社会は以下の2点に集約できる。

(1)さまざまなリアルな機械(モノ)につけられたセンサーが集めたビッグデータをAIが分析し、有意義な情報とし、機械(モノ)にフィードバックする。
(2)フィードバックされた情報を活用し、機械がより高度できめ細かなサービスを提供できるようにする。

こうした社会像は、自動運転の未来と重なる。クルマが集めるデータを駆使して、リアルタイムでの道路状況などを知り、効率的なクルマの運行システムを実現したり、消費者が求めるサービスを提供したりするからだ。