「どっちみち、私を潰しに来たんです」

「私が身を退く決意を伝えた時、弟子たちは泣いていましたけど、『何が襲ってきたのか、いつか分かる日が来る』、『お前たちは生き残るんだ』と伝えました。振り返れば、これまでも無所属の親方がいた時期もあったのに、私の一門がなくなった途端、どこかに所属しなければならないと、私を標的にした流れが作られました。協会は、元の古い体制に戻った、いや、さらに酷くなったんじゃないでしょうか」

貴乃花の周りには弁護士など、知恵者がいるようだ。たとえば、一門に入りたいために、もし告発状を事実無根だと自分が認めたとしたら、「事実ではないことを根拠に協会を告発したといって、私を解雇する材料にしたでしょう。どっちみち、私を潰しに来たんです」と、深読みまでしている。

貴乃花の引退会見の直前に白鵬の秋場所全勝優勝があり、9月30日には元横綱・日馬富士の「引退断髪披露大相撲」が両国国技館で行われた。

笑福亭鶴瓶や朝青龍らが大銀杏に鋏を入れ、師匠の伊勢ケ濱親方が止め鋏を入れた。日馬富士は土俵に数秒間口づけをして花道を去っていったが、涙はなかった。

『新潮』によれば、日馬富士は傷害容疑で書類送検され、略式起訴で50万円の罰金を払わされたが、その後、貴ノ岩との間で示談交渉が行われていたという。

「貴ノ岩の代理人弁護士が話し合いの席を持ち、そこで、貴ノ岩の代理人弁護士は慰謝料などの名目で3000万円の支払いを求めていました」(相撲協会関係者)

貴乃花は、日馬富士を引退に追い込むつもりはなかった

だが、事件の状況に認識の差があるため、不調に終わったそうだ。鳥取区検察庁で暴行事件の資料の一部を閲覧したジャーナリストの江川紹子氏は、こういっている。

「事件直後の貴ノ岩関の警察官調書には、日馬富士関に“失礼なことをした”という認識があったことが述べられている。殴られても耐えていたが、会話中に携帯を見るという失礼なことをしたので仕方がない、といったニュアンスで事件について語っています」

事件直後のことだから、貴ノ岩が、そういわないと大変なことになると忖度して、このようにいった可能性も否定できないが、貴乃花には違う話をしていたようだ。

貴乃花は、事件をうやむやにしようとした相撲協会のやり方に反旗を翻したのであり、日馬富士を引退にまで追い込むつもりはなかったようだ。

晴れ晴れとした表情の日馬富士を見て、貴乃花は胸中、どう思っていたのであろう。