リップサービスのつもりが即刻アウト

悩ましいのは、「第1志望はどこか」という質問だ。「どこに行っても『御社第1志望』で押し通せばいい」(『面接の達人』)、「嘘をつかずに、正直に話したいというあなたの気持ちはわかります。しかし、少しでも入社したい気持ちがあるからこそ面接を受けているのでしょうから、『第1志望です』と答えましょう」(『受かる! 面接力養成シート』田口久人著)と指導する。あるいは優先順位を聞かれて「御社の優先順位は1位です」と答え、「第1志望群ですというあやふやな答えではなく、はっきりと言うことが大切です」(『一問一答 面接攻略 完全版』)と指南する。

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第2志望、第3志望だと言えば落とされる可能性があるからだが、サービス業の採用担当者は「ウソをノックアウトファクターとして定めているので、ウソをついたら基本的に一発アウトだ。見分けるのは難しいが、1次、2次、3次面接でいろんな角度から質問し、話し方に整合性がなければウソをついているとみなし、即刻アウトになる」と指摘する。第1志望でなければ内定を出さない会社もあるかもしれないが、「ほかに受けたい会社があります」と正直に答えると「その会社を落ちたら連絡してよ、待っているから」と声をかける人事担当者もいる。企業によって対応が分かれるようだ。

どの就活本も身だしなみやマナーに注意すべしと説く。「マナーをよくすれば必ず通るというわけではない。でもマナーが悪いと必ず落ちる」(『面接の達人』)。あるいは退室のマナーについて面接会場を退室しても誰が見ているかわからないので、「会社の付近で携帯電話を使用する」「会社の近くでほかの学生とたむろする」のは厳禁とし、「面接会場から、速やかに立ち去ることが一番です」(『受かる! 面接力養成シート』)と言う。確かにホテル業などの接客業では学生の一挙手一投足をチェックしている企業もある。だが、住宅メーカーの人事担当者は「座り方やドアの開け方、身だしなみは全然気にしていない。面接官との会話でもスムーズに話せれば、敬語の使い方が乱れていても問題はない。ただ、ほかの学生とすれ違うときに挨拶しないとか、気を使わない学生はどうなのかなと思う」と指摘する。

就職支援会社モザイクワークの高橋実取締役COOは「面接の趣旨は本来、学生と面接官双方がお互いの本当の姿を知ることにある。だが、マニュアル本で武装した学生の化けの皮を剥がそうと一生懸命になり、“化かし合い面接”になっているのが今の状況。学生の本当の姿が見えることはないし、マニュアル本はまったく意味がない」と指摘する。マニュアル本は面接を理解する一助にはなるだろう。だが、業界・企業によって考え方は異なり、模範回答がそのまま通用するとは限らない。大事なのは、自分の個性を知ってもらうことなのだ。

「プレジデント」(2018年10月29日号)の特集「人生が変わる『面接』のスゴ技」では、「新卒、若手の就職」をはじめ、「ミドルの転職」「シニアの再就職」「医学部入試」「小学校入試」など、さまざまな面接をテーマに記事を展開しています。「面接」だけで特集を組むのは、これが初めてです。ぜひお手にとってご覧ください。

溝上憲文(みぞうえ・のりふみ)

ジャーナリスト

1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。
(撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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