人事担当者は、どう考えているのか
就活時期に大量に書店に並ぶ「就活マニュアル本」。エントリーシートの書き方から面接のノウハウや攻略法、想定問答まで網羅し「これさえ読めば内定確実」と謳う。もちろん面接のトレーニングは必要だが、業界・企業によってほしい人材も違えば時代やビジネス環境によって変化する。何より面接担当者も多種多様だ。
だが、どの本を見ても優等生的な模範回答が多い。たとえば「あなたの短所は何ですか」という質問。『一問一答 面接攻略 完全版』(櫻井照士著)では「私は遅刻癖があり、友達との約束の時間にも遅れることが多々あります」というのが「悪い回答」例。良い回答例が「私の短所は最初の一歩を踏み出すことが少し遅いところだと認識しています」「先のことを考え、リスクを想定してから行動に移すことがその理由だと思っています」。そして短所を語るときは「長所と短所は表裏一体であるという考え方で、短所を抽出してみてください」とアドバイスする。
長年就活生に読み継がれてきた『面接の達人』(中谷彰宏著)でも、短所は何かを聞かれたら「短所を言うふりをして、長所を言えばいい」と言う。
『絶対内定2020 面接の質問』(杉村太郎・熊谷智宏著)でも「『人と話すのが苦手です』など、仕事をする上で、決定的にまずいことは避ける」ように指導する。このような模範回答に対して、企業の人事担当者はどのように感じているのだろうか。
大手石油業の人事課長は「短所を言うふりをして長所を答えても、それって長所じゃないのと簡単にわかる。本音を引き出すまで切り口を変えて違う質問を繰り返し、真実を引き出すのは簡単だ」と指摘する。また、IT企業の人事部長は「エンジニア志望の学生の中にはコミュニケーションが苦手な学生が少なくないし、こっちも話し方で下手だなとわかる。話すのが苦手と言われると、正直な人だなと思う。一定の技術的素養があれば、コミュニケーション下手でも入社して鍛えれば何とかなる」と語る。短所を正直に話しても問題ではない場合もあるということだ。
英語力に関する質問では「『できません』『苦手です』は完全にNG。今の時代、英語はできて当然、できなければほとんどの業界で明らかに不利である」(『絶対内定2020 面接の質問』)と言う。確かに採用試験で一定の英語力を求める企業はある。だが、総合商社の人事担当者は「英語力は会社に入ってからでも身につくし、海外赴任前に集中して勉強し、赴任後に揉まれて初めて実践の英語が磨かれる。学生に求めるのはどんな変化にも主導的に切り開いていけるチャレンジ精神だ」という。就活時点で英語力が低くてもエントリーをためらう必要はない。
学歴と採用に関しては「(学校名で)あいかわらず差をつける企業も少なくない」と前置きしたうえで、「面接官はなにも気にしていないのに、気にしていると思い込んではいけない」(『面接の達人』)とアドバイスする。だが、「採用実績校でもない学生が大量に受けにくるが、合格者はほとんどいない。受けるなとは言わないが、大学のキャリアセンターがあの企業は実績がないから無理だよと言うなど、もう少し指導してほしい」(食品会社人事担当者)と言う企業もある。
今ではすっかり定着したインターンシップだが、「インターンシップをやっていないのは不利なのか」という設問に対して、インターンシップを実施する企業は「インターンをごまめ扱いする会社」「雑用などのドロ臭いことを体験させる会社」(『面接の達人』)の2つだという。だが、就職みらい研究所の調査では、約7割の企業が17年度にインターンシップを実施(予定含む)。内定者の中に自社のインターンシップ参加者がいたと回答した企業は73.6%、そのうち採用目的として実施していると回答した企業は34.8%にのぼる。インターンシップにより、企業が早い時期から優秀な学生を獲得していることが窺える。