焼き肉のたれの本当の商品価値とは

価値創造プロモーションの一例として、エバラ食品の焼き肉のたれのケースを紹介します。焼き肉のたれのように日常的に使用される消費財は、消費者には安くて当たり前ととらえられているため、価格を下げなくても売れるプロモーションが求められていました。そこで、デプス・インタビューとウェブ・モチベーション・リサーチの分析結果を踏まえ、4種類のプロモーションを提案して店舗実験を行いました。

焼き肉のたれは「どれも同じ」と安売りされがち。(AFLO=写真)

【ホットプレートdeフルコース】
ホットプレート焼き肉にマンネリ感を抱いている人が多い。一方、ホットプレートで焼き肉の後に焼きバナナや焼きリンゴなどを楽しんでいる人もいることがわかった。そこで、ホットプレートでいろいろな料理を作り、フルコースを楽しむことを提案。

【お家で開催! たれコレ】
「たれの味に飽きてくる」「焼き肉は手抜き料理だという罪悪感がある」「もっと野菜が食べたい」といった声を踏まえ、たれにキュウリの千切りやトマト、オリーブオイルなどを加えることで、違った味が楽しめる「たれコレクション」を提案。

【ウチの子 鉄板デビュー!】
「焼き肉だと子どもが野菜を食べてくれない」という声が多かったことから、野菜を絡めたメニューを子どもと一緒に作ることを提案。

【今日はラクしたい……】
「焼き肉は手間がかかる」「油がはねるのがイヤ」「後片づけが面倒」「部屋の匂いが気になる」という声から、フライパンでパパッと作って出すことを提案。

実験の結果、「たれコレ」が実験前と比べて実験中は約9倍、実験後も5倍以上の売り上げを記録しました。

また、過去半年以内に1回以上焼き肉のたれを購入したことのある30代以上の主婦に、4つのプロモーション案ごとに焼き肉のたれをどれくらいの価格範囲で受容できるかを調査したところ、すべてのプロモーション案において受容価格が通常販売価格を大きく上回りました。この結果を基に、エバラ食品ではその後、「たれコレ」プロモーションを全国展開しました。

商品の価値が消費者に伝われば、適正価格を上げることができることが明らかになった事例と言えます。

上田隆穂(うえだ・たかほ)
学習院大学経済学部教授
一橋大学大学院商学研究博士課程単位取得退学。経営学博士。1986年より学習院大学経済学部に勤務。92年より教授。専攻は価格戦略、小売戦略、地域活性化など。主な著書に『生活者視点で変わる小売業の未来』(宣伝会議)など。
(構成=増田忠英 写真=AFLO、iStock.com)
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