トヨタの生産現場が強いといえる4つの理由

1.照明が明るいこと。

くり返すが、わたしは7年間に70回も工場を見た。しかし、一度もトヨタの工場で蛍光灯やLED照明が切れていたのを見たことはない。自動車工場とは広いものだ。広汽トヨタの工場でも目を皿のようにして天井を見つめたけれど、すべての照明はちゃんと点いていたのである。

「そんなの当たり前だろ」という人は自分の会社の天井灯を眺めてほしい。どんなオフィスでも1本くらい切れていたり、切れかかっていたりする。また、トヨタの工場は明るい。そして、複雑な作業をする人の手元を照らすスポットライトを備えている。

広汽トヨタ自動車の製造ラインの様子。
2.見学路が安全でかつ見やすいこと。

他社工場の見学コースでは頭を下げなければ歩けないような通路がしばしばある。トヨタにはない。見やすくできている。広汽トヨタの見学路はさらに進化していて、通路の下側にLED照明が付けてあった。まるで、舞台の上を歩いているような気分だったのである。見学者という外部の目のことまで視野に入れて工場をレイアウトしている。

広汽トヨタ自動車の見学路の様子。足元がライトアップされているのがわかる。
3.生産ラインがフレキシブルなこと。

トヨタ生産方式の特徴はカイゼンすることではなく、カイゼンを続けることだ。一般の工場では一度、ラインを引くと、そのまま使い続ける。だが、トヨタはカイゼンするためにラインを引き直すことに躊躇しない。ゴミ箱の位置でさえ、毎日、変える。広汽トヨタの場合は空きスペースをつくっている。一般の工場では空きスペースなどというものは存在しない。空いていればすぐに部品や荷物を置いたりしてしまう。ところが、広汽トヨタは生産ラインをフレキシブルに保つため、余裕スペースを設けている。

4.働いている人間がふてぶてしいこと。

実はここがトヨタの生産現場のもっとも大きな特徴だ。やりにくそうだったり、面倒くさそうに仕事をしている作業者はいない。そして、彼らはふてぶてしい。見学者のことなど歯牙にもかけていない。一般のオフィス、工場へ見学に行くと、働いている人間が仏頂面になったり、背中から「早く帰れ」という念力を出したりする。トヨタの生産現場は違う。

「おう、いくらでも見て行け。ただし、オレの仕事の邪魔はするなよ」といった風情だ。

トヨタの工場、特に広汽トヨタの現場を見ると、働く人間たちが余裕を持っていることがわかる。緊張よりも弛緩だ。そして、最小限度の動作で仕事をしている。強い現場の人間の動作はアスリートのそれと似ている。工場で見るべきポイントとは照明やラインだけでなく、やはり作業者の動きとその表情だと思う。

野地秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒、出版社勤務などを経て現職。人物ルポ、ビジネス、食など幅広い分野で活躍中。近著に、7年に及ぶ単独取材を行った『トヨタ物語』(日経BP社)がある。
(写真提供=トヨタ自動車)
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