1台ずつが「今、どこにあるか」をつかむことができる
同社の石川俊治工場長と北明健一販売本部長はふたり一緒に工場のなかを案内してくれた。こういう風景は他の自動車工場ではありえない。製販一体という言葉通り、ふたりはしょっちゅう、一緒にいるのだろう。そして、話すことも同じだった。
「お客さまのところに車が届くまでの時間を縮めたい」
広汽トヨタでは工場のラインにある間から客の家に納車されるまで、1台ずつが「今、どこにあるか」をつかむことができる。しかも、オーダーされた車がラインにあるのか、販売店に向かう途中なのかが瞬時にわかる。その新流通システムSLIMは大きなモニターが販売本部にあるだけでなく、販売担当がタブレットとして持っている。
客から「僕の車はいつ来るの?」と問われた時、「今、工場を出て、販売店に輸送されています。明後日にはお渡しできます」などと答えることができる。客はイライラしないで済む。こうしたIT技術とともに、同社の人間はやたらと腰が低い。工場を案内してくれる技術者は無口もしくは無愛想なタイプがほとんどだったが、広汽トヨタの石川さんは話し上手だった。
「今、うちの会社では『ジャスト・イン・タイムサービス』を大切にしています」
これまでのジャスト・イン・タイムから一歩進んで、トヨタはサービス会社になろうとしている最中だ。モノ作りの担当者でさえも腰の低さ、愛想のよさを追求しているのだろう。とはいっても、まだまだこれからだ。今のところは「他の工場技術者に比べて腰が低い」という程度である。
トヨタの生産現場の強さはどこにあるか
工場を見て歩いた後、水先案内は浅井雅弘部長に変わった。浅井さんはまるまる2日間、朝から晩まで、面倒を見てくれた。販売店や買ったばかりの客を紹介してくれただけでなく中国企業である騰訊(テンセント)のSNSアプリをダウンロードしてくれて、アプリでコーヒーや屋台のうどんを買う方法まで教えてくれた。人が良くて、家族思いの販売本部幹部が浅井さんだ。
しかし、まあ、浅井さんの話は置いておいて、トヨタの生産現場の強さをどこに見たかをまとめておく。