ソフトバンクのビジネスが拡大するきっかけになったのも、NCC-BOXという自動的に電話回線を切り替える機械をフォーバルという会社と共同で開発したことでした。この機械を全国の中小企業に無料配布し、新電電からのロイヤルティーで大きな利益を上げたのです。

ただし、孫社長は開発にあたってアイデアは出したものの、自社のインフラや人手を使って全国に配布したのはフォーバルです。そのためのコストは、孫社長が負担したわけではありません。

「自分のお金を使わなくても事業はできる」

つまり、孫社長はほとんどリスクをとらずに、大きなリターンを得たことになります。

2017年には、サウジアラビアと共同で10兆円規模の巨大ファンドを設立したことが大きなニュースになりましたが、これもソフトバンクが全額出資したわけではありません。サウジアラビアやアラブ首長国連邦アブダビの政府系ファンド、米国のアップル社や半導体大手のクアルコム、台湾のホンハイ精密工業などが、それぞれ多額の出資をしています。

「自分のお金を使わなくても事業はできる」という考えは、20代でソフトバンクを創業した頃からまったく変わっていないということです。

またもや話が大きくなりましたが、もちろん一般企業のビジネスや商売でも同じです。

知恵さえあれば、お金をかけずに事業を拡大することはいくらでも可能です。

ソフトバンクの目標達成プロセスの極意

そのことを証明する良い事例を紹介しましょう。

東京に、自由が丘毛皮工房石井という店があります。

夏の時期に街を歩いていてたまたま見つけたのですが、並んでいる商品の値札を見ると相場よりかなり安いので、店主に「この価格では儲からないのでは?」と聞くと、こんな手の内を教えてくれました。

実は、今やっているのは、一般販売ではなく受注会とのこと。店内の商品はいわばサンプルで、来店者がその中で欲しいものがあれば、半金を払って予約すると希望の商品が冬に納品されます。

半金とはいえ、前払いでキャッシュが入ってくるので、それを仕入れに回せば資金繰りのリスクは最小化できます。しかも、「予約の多い商品=今年の売れ筋商品」なので、確実に売れるものに絞って海外に発注をかけることができます。トレンドの読みが外れて、大量の在庫リスクを抱える心配もありません。

こうして仕入れた人気商品は、冬のかき入れ時には受注会の三倍の値札をつけても売れるので、確実に儲かるそうです。