「報道」の最大のコストは記者の人件費
【田原】大学は学習院ですね。入学して1年目に、いま経営されているJX通信社を立ち上げられる。通信社はたくさんあるけど、米重さんは何をやろうとしたんですか?
【米重】航空のニュースサイトをやっていたのと同じ時期に、「オーマイニュース」や「JanJan」など、いわゆる市民記者が取材をして記事を書く新しいタイプのニュースサイトが次々に立ち上がりました。ただ、それらのサイトのほとんどが早々に潰れてしまった。オンラインニュースメディアのマネタイズが難しいことを見せつけられましたが、一方で、いつまでも紙メディアが中心にいるとも思わない。それなら自分でオンラインの新しいビジネスモデルをつくってみようと思って、JX通信社を設立しました。
【田原】オーマイニュースやJanJanは、なぜ潰れたんだろう。
【米重】まず取材にはお金がかかります。また、お金をかけても、ジャーナリストの訓練を受けていない市民が記者だと、記事の質を担保できず、読者が増えていきません。読者が少なければ広告が集まらず、結局、コストと収益のバランスも取れなくなってしまう。やはりもともと無理のあるモデルだったと思います。
【田原】JX通信社は、どのようなモデルでやろうとしたのですか。
【米重】私が考えたのは、ニュースメディア間の記事の売買です。たとえばフリーペーパーのA社がつくった記事を、別のWebメディアのB社が買って自社のサイトに使う。そうすればA社は収益が増えるし、B社は自社で取材するより安く記事を配信できます。記事を売りたいメディアと買いたいメディアのマッチングの仕組みをつくるつもりでした。
【田原】それはうまくいきました?
【米重】いえ、残念ながら。実際にやってみると、記事の質にかなりバラツキがあって、買いたい側のニーズにフィットしないケースが多かったんです。マッチングのやり方もけっこうアナログで、結果としてニュースメディアのコストを下げるという目標は達成できないままサービスを終了させました。
【田原】その後はどうしたの?
【米重】コストを下げるためのアプローチを抜本的に見直しました。報道の分野で大きくコストが掛かっているのは人件費。報道は、取材するのも人間で、記事を書くのも人間です。何から何まで人間がやるからコストがかさむ。そこで報道のプロセスに機械を入れて、取材や編集の業務を自動化してコスト削減する方向へと舵を切ることにしました。