リニア中央新幹線のような大型プロジェクトにおける談合事案の背景に、明治以来の硬直化した発注構造がしばしば潜んでいるという事実を、ゼネコン側はこれまであまり世間に開示してこなかった。それは、「企画」「調査」「設計」に関わりながらソフトフィーがもらえない、事前の「汗かき業務」をしているゼネコンがいる場合、そこにはあえて手を出さないという忖度(そんたく)が同業他社の間で働くからだと思われる(逆の立場になったとき、自分たちが汗かき業務をしている案件に他社が参入してほしくないからだ)。そのため様々な官庁工事、民間工事での汗かき業務は根強く生きており、競争原理が働きにくくなっている。

もっともそうした構造にも、少しづつ変化の兆しは見られる。たとえば従来、東京駅は大林組の“元施工”であり、初代東京駅からほぼすべての改修工事を大林組が手掛けていたが、辰野金吾設計の原型への復元工事(2007年~2012年)は鹿島が受注に成功した。一方で、鹿島が汗かき業務をしていたスカイツリーは、大林が鹿島を出し抜いて受注し、借りを返した。長らく銀行系列支配の中にあった日本のゼネコンも、少しずつ競争原理にさらされつつある。

明治の先人たちを超える新たな進化を

官庁/発注者が明治時代のように、企画から設計、施工、工事監理、維持管理運営、リニューアル全てにリーダーシップを維持することは、財政、人材確保の観点からも困難な時代となった。各段階でソフトフィーを支払う仕組みを整えない限り、不明朗な「談合」はなくならないだろう。

発注システムの改革以外にも、許認可権限の整理統合、年度会計制度の柔軟な運用など、取り組むべき課題は多く、問題解決のハードルも高い。既得権を持つ官庁、コンサルタント企業、民間企業にとって、制度改革は一時的な痛みを伴うだろう。だが、大型インフラ整備プロジェクトの将来の仕組みについて、明治の先人たちを越える新たな進化を求め、一歩を踏み出すべき時はすでに来ている。

野呂一幸(のろ・かずゆき)
技術経営士の会監事
1948年生まれ。71年名古屋工業大学工学部建築学科卒業、大成建設株式会社入社。2007~2012年設計本部長。日建連設計委員会委員長。さいたまスーパーアリーナはじめ、国内外の設計施工コンペ、PFI事業提案のプロジェクト・リーダーとして参加。2012年に技術経営士に認定され、中小企業に対する技術経営戦略のアドバイスを行うとともに技術経営士ジャーナルの編集に携わる。
(写真=時事通信フォト)
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