ほかのイベントにも出る場合、翌年の出店は断る

パリ祭の賑わいも話題を呼んだ。市原は振り返る。

「何人ぐらい来ましたか? と訊かれたけど、テーマパークじゃないし数えとらんし。とにかく幅八メートルの通りで人と人がすれ違えんような混雑でした。何人来たかより、ここでしか出会えない祭りとして続けていくことが大切なんだと思いましたね」

山口あゆみ『名古屋円頓寺商店街の奇跡』(講談社+α新書)

パリ祭は毎年すごくなってきているね、と言われるために、また商店街の人たちに「円頓寺商店街のパリ祭」が世の中に良いイメージを発信できていると感じてもらうためにも、本物にこだわって続けていくことが何より大事だった。

そこで市原たちは、出店者についてひとつのルールをつくった。

いろんなイベントに出店している店からの応募は断る。そして、今まで出店をオファーしていた店でも、ほかのイベントにも出ることになった場合、翌年のパリ祭への出店は断る、というルールである。そのことを伝えると「じゃあやっぱり、新しいほうは断ります」という店もあった。

年一回の祭りのために普通じゃない努力をしている

「これは脅しでも何でもなく、パリ祭でしか出会えない店がそこにある、というのを大事にしたいからです。花火大会の屋台だったら、どこにでも出ているクレープ屋さんがあってもいいと思いますが、パリ祭というかぎりは、パリに特化している店に出店してもらわないと、『今回はパリでもなかったよね』と言われて魅力を失うと思うんです。だからブースが空くようなことになっても、このルールをクリアできない店はお断りしているんです」

これは出店する側からするとなかなか厄介なルールである。

イベントに出るために店側は、ブースの造作やサービスの仕組み、什器の用意など一通り準備しなくてはならない。費用も手間もかかる。イベントに出るならばある程度出続けなければ効率が悪い。イベント主催者側にとっても、イベントに出慣れている店に出てもらえばフォローも必要なくさくさくと進むので、実は楽なのである。

パリ祭では、主催者、出店者双方が、年に一回の祭りのために普通じゃない努力をしている。そのことが来る人にも伝わっているのだ。

これはある種のブランディングだと言えよう。ただし、うたい文句によるブランディングではなく、手間暇かかるブランディングである。