航空会社のエールフランスには、タブロイドの冊子に名前を載せさせてもらった。もちろん広告料などなしで、ただ載せさせてもらっただけである。そして、自動車メーカーのシトロエンには、会場に車を並べてもらうことになった。

円頓寺商店街のアーケード。自然光が入るつくりになっている。(写真=入江啓祐)

あとは果たして人が来るか、である。これが最後に残った心配だった。

とにかくメディアで紹介してもらうしかないと考えたが、雑誌は掲載までにタイムラグがあるため、概要が決まったときにはすでに時間的に難しかった。狙うとすればテレビだ。

あたってみると、ちょうど10月の番組改編のタイミングで、新番組の初回の特集で取り上げてもらうことができた。

本物にこだわったことが人を呼ぶ

当日、ふたを開けてみると、心配は無用だった。予想をはるかに超えて七夕まつりをしのぐ人を集めた。

七夕まつりとは客層が違い、近隣というよりわざわざ遠くからおしゃれをしてきた人が多かった。女性が多く、またベレー帽率が半端なく高かった。そしてかなりの人が最初に、花とパンを買い、それを持っていろんなブースを覗き、大道芸や音楽のライヴを取り巻いた。七夕まつりではがんがん飲んで酔っ払っている人も多いが、パリ祭に来た人たちは上品に飲んで食べて楽しんでいる。今までの円頓寺商店街と縁のなかった人たちが多くやってきていた。

この日、商店街の店は自分たちの祭りだという意識は希薄で、積極的に参加するというより、通常営業しているという状態だったが、それぞれの店にも客が殺到した。

しかし、混乱はなかった。たくさんの客がいきなり来ても対応できるところが、長年七夕まつりの人出に慣れている商店街の実力だった。

『肉の丸小商会』ではメンチカツの注文数が史上最高だったそうである。

丸小の木俣和彦さんはこう話す。

「昔は遊びに来た若い人で賑わっていたんだけど、最近はほんとに寂しい状態になってた。ところがパリ祭では、若い女の子の行列ができてね。そのあとから、なぜかパリ祭じゃないときにも、若い子が店に来るようになった。そういう子と話をしていると、若返った気分がして嬉しいんだよ」