データ2:熱中症の隠れたリスク、一人暮らしの危険
次にご紹介するデータは、「一人暮らしのリスク」です。「熱中症と関係があるの?」と思われる方が多いかもしれませんが、一人暮らしは熱中症などの大きなリスクです。実際、重症熱中症で搬送される方には、一人暮らしの高齢者が多くみられます。図3は、一人暮らしの人と、そうでない人が猛暑の際に死亡するリスクを比較したものです。一人暮らしの場合、そうでない場合に比べ、死亡するリスクが約2倍高いことが示されています。
体調が悪くなりそうなときに、「支えてくれる人が周りにいるかどうかで、重症度が変わる」ということを、このデータは物語っています。
では、一人暮らしによる死亡のリスクを下げる方法はあるのでしょうか? その答えは、連絡を多くとるというシンプルな方法です(図4)。社会的な交流を増やした人は、そうでない人に比べて、死亡リスクが60%低下しました。
もし、この記事の読者の方で、ご両親や友人で一人暮らしの方がいたら、ぜひメールや電話だけで構いませんので、連絡をとってみてください。その連絡が、相手を猛暑から守ることにつながります。
このように、過去の猛暑から得られた教訓を、データでお伝えしてきました。これまでの内容をまとめると、
・実家で住まう両親など、一人暮らしの方には頻繁に連絡を
ということになります。
その他、環境省や厚生労働省、救急医学会などが、公式サイトで多くの情報を発信していますので、ご活用いただければと思います。
厚生労働省ウェブサイト:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/index.html
救急医学会「熱中症予防に関する緊急提言」:http://www.jaam.jp/html/info/2018/pdf/info-20180720.pdf
熱中症は、生命にも関わる疾患ですが、同時にシンプルな対策で確実に予防できる疾患でもあります。正しい知識と予防法を身につけ、この夏を乗り切っていただければと思います。何か疑問があれば、オンライン健康相談「first call」でチャット相談をしていただければ、私たち医師から状況に合わせた正しいアドバイスをお伝えいたします。
※本文では、死亡オッズ比のことをわかりやすくお伝えするために「死亡リスク」としてご紹介しています。疫学的に正確に述べると死亡オッズ比です。ご了承ください。
【参考文献】
*1 東京消防庁(2018)「 熱中症による救急搬送人員数(7月16日~7月22日速報値)」, http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_2.html(参照2018年7月25日)
*2 Kosatsky T.“The 2003 European heat waves.”Euro Surveill. 2005;10(7):148-149.2.
*3 PATZ,Jonathan A.,et al."Impact of regional climate change on human health.”Nature, 2005, 438.7066: 310.
*4 Bouchama, Abderrezak,et al.“Prognostic factors in heat wave-related deaths:a meta-analysis.”Archives of internal medicine167.20(2007): 2170-2176.
*5 同上
*6 Bouchama,Abderrezak,Mohammed Dehbi,and Enrique Chaves-Carballo.“Cooling and hemodynamic management in heatstroke:practical recommendations.”Critical Care 11.3 (2007):R54.
オンライン健康相談「first call」相談医
医師/聖路加国際病院救急部/東京慈恵会医科大学分子疫学研究部。2007年東京慈恵会医科大学入学後、世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、13年より聖路加国際病院に入職。14年度、聖路加国際病院ベストレジデント。現在は、聖路加国際病院・救急部医師として臨床に従事する一方、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部にて研究を行う。15年にMediplat(現メドピアグループ)の設立に参画し、オンライン健康相談サービス「first call」の企画・運営も行っている。