ニコライ1世の死後、アレクサンドル2世が帝位を引き継ぎ、クリミア戦争を終結させます。アレクサンドル2世は平和主義者で、自由主義的な考えを持っていました。アレクサンドル3世は父のリベラルな態度が気に入らず、たびたび父帝と衝突しました。
アレクサンドル3世は、無念の死を遂げた祖父ニコライ1世の復讐(ふくしゅう)を遂げようと執念を燃やしていました。温和でつつましい物腰の内側に、保守反動の強い野心を秘めていたのです。皇太子時代には自ら志願してロシア・トルコ戦争に従軍。オスマン帝国に攻め入り、イスタンブールまで進撃して、1878年、同国を降伏させています。
アレクサンドル3世は、軍事力の増強こそがロシア帝国の急務であり、そのためには祖父のニコライ1世が行った専制政治を復活させるべきだと考えました。1881年、アレクサンドル2世が反体制派のテロで暗殺され、その後を継いで皇帝に即位すると、父のリベラル路線を否定し、保守反動の政治を行い、拡張主義のもと、中央アジアへの南下政策を進めます。
プーチン大統領は、こうしたアレクサンドル3世に自らの姿を投影しているのでしょう。そして、アレクサンドル3世ら過去のロシア皇帝の意志を引き継ぎ、ロシアの過去の栄光を取り戻すことを、自らの使命と考えているはずです。
ロシアにとってのクリミア併合の意味
プーチン大統領は2018年の3月の大統領選挙で圧勝し、再選されました。敵対勢力を政治的に抹殺し、独裁権を確立しています。プーチン大統領こそは、現代版ロシア皇帝です。
ロシアにとって、クリミア併合は「覇権の再確立」への一歩です。クリミアは小さな半島ですが、かつてのロシア帝国の世界戦略の本拠地でした。ロシアの覇権にとって、クリミアは欠かすことのできない存在です。黒海・地中海エリアから中東やヨーロッパにつながる地政学上の要衝を、今日のロシアが奪い取ったことは、他国にとって大きな脅威であることは言うまでもありません。
これほど重要なことを、米ロ首脳会談でトランプが取り上げなかったというのは、ロシアの一方的な領土併合を認めるに等しい行為です。