年収が低くても「ポジティブ退職者」はしっかり存在

最後に、年収水準についても整理してみました。これをみると年収1000万円以上の高年収層は全体の5.6%しかいませんが、ポジティブ退職者に限った場合、12.7%が年収1000万円以上であり、年収が高い人ほどポジティブ退職者である確率が高いことがわかります。

所得は企業側からの評価指標のひとつであり、高年収のポジティブ退職者は組織と個人が相思相愛の状態といえるかもしれません。

他方で、年収300万円未満の低年収層は全体の22.5%でしたが、ポジティブ退職者に限っても21.4%とほぼ同じ割合でした。高年収層だけが辞める企業をポジティブに評価しているわけではなく、年収が低くてもポジティブ退職者となることができることがわかります。

「良い別れ」は「良い出会い」を生む

この数年で個人と企業の関係性は急速に変わりつつあります。転職が当たり前となり、戦後の日本社会で定着してきた、個人がその企業だけで一生働く、その企業だけに一生忠節を尽くす、そんな関係性は過去のものとなっています。

そんななかで、次の時代の個人と企業の関係性において、辞めた企業を積極的に、前向きに評価して退職している個人の存在は、個人と企業の新しい関係性を提示しているように思います。

あなたと企業の別れが、憎むだけでなく、互いの良いところを大いに認め合った上のものになったら。そしてあなたが6%の「ポジティブ退職者」となったら。それは「出戻り」のチャンスや、前職ネットワークを活用したキャリアづくりへと広がります。

また、企業にとっても、自社の文化や社内人脈を有しつつ外部の知見・経験を持つ、イノベーションの起点となる人材を得たことになります。それは企業にとって、「イントレプレナー」に対する「アウトレプレナー」を得たといえるかもしれません。

論語には、「故旧は大故なければ則ち棄てず」(昔から付き合いのある者は、よほどのことがない限り見捨ててはならない)という言葉があります。これからの時代、退職することとなったとしても昔なじみとなった企業と個人がいかによく別れるか、そして、良い別れこそが良い出会いを生むということを、考える時期にあるのではないでしょうか。

古屋 星斗(ふるや・しょうと)
2011年一橋大学大学院 社会学研究科修了(教育社会学)。同年、経済産業省に入省。産業人材の育成、投資ファンドの創設、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退官。現在は、研究者としての活動の傍ら、社会的起業の事業企画も手掛ける。
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