▼リスクに慣れる練習 Lesson 4

人は事故や天災を目の当たりにすると、「リスクに備えよう」と考える。しかし、本当に正しく備えることができているだろうか。

「確率や被害額など、計算によって導き出されるのが本来のリスクです。たとえば年間の交通事故数から自分が事故に遭う確率を求めることができる。しかし、そうやって算出した『客観確率』でリスクを考える人は少数派で、実際には直感や感情によって判断しています」(同)

自分の知り合いが事故に遭ったり、悲惨な事故の報道を見たりすると、それだけでリスクを強く感じるようになる。多くの人は、その「主観確率」に従って行動している、ということだ。

たとえば、9.11同時多発テロの影響により、アメリカでは飛行機での移動を控え、自動車に乗る人が一時的に増えた。結果、年間の交通事故死亡者も通常より増加。統計的には、飛行機の死亡事故率は車と比べてはるかに低いし、9.11後にはテロ対策も強化された。つまり、飛行機は自動車よりもずっと安全な移動手段なのだが、多数の死者を出したテロに対して強い恐怖を抱いたことが、多くの人の判断を誤らせたのだ。

たしかに飛行機事故はひとたび起これば数百人が亡くなることがある。日本国内では毎日交通事故で約10人が亡くなり、年間で死者は4000人弱。死者の総数だけ見れば、交通事故のほうが悲惨だが、それでも人は飛行機事故のほうにより強い恐怖を感じる。この性質もまた人類が進化の過程で獲得したのではないかとされている。1度に多くの人が死亡するような大事故や大災害を目の前にしても恐怖を感じないようであれば、その集団は危機にあって、すぐに全滅してしまうかもしれないからだ。