▼健康になる練習 Lesson 3

「何十万年もの間、糖分と塩分、脂肪分から栄養を摂取していた人類の歴史から考えれば、ダイエットが大変なのは当たり前。『糖分が嫌い』とか『脂肪分が嫌い』なんて言っていたら、生き残れない時代があり、それらを好むように本能に刷り込まれている。それに逆らうわけですから」(同)

目先のおいしいものに飛びついてしまう本能、つまりシステム1に逆らうためには、システム2を働かせなければいけない。自分の体を分析したうえで、「そこで甘いものはやめておけ」と自制することができるかがダイエット成功のカギを握る。

「ただ、実際にはダイエットが必要ない人もダイエットしようとするご時世ですから、そもそも本当に必要なのかということ自体を、システム2を働かせて分析するべきでしょうね」(同)

さて、ダイエットに限らず、運動のため、リフレッシュのためとジムを活用する人も多いが、ジムを使うなら、その都度お金を払うべきか、それとも月額制にするかを判断しなければいけない。「やる気はあるから、それなりの回数は通うはずだ。ならば月額制のほうが得」。そんな考えには落とし穴がある。

実際にスポーツジムを舞台にした行動経済学の実験がある。半年ごとに会費の請求書が送られるジムにおいては、会費の支払い直後はジムに行く頻度が跳ね上がるのだが、その回数は尻すぼみになっていく。そのとき働いているのは「元を取らなければ」という意識だ。すでに支払ってしまって、回収できないサンクコスト(埋没費用)にとらわれるのが人間。そんなサンクコストの影響により、「会費を払ったのだから」と調子の悪いときにも無理してジム通いをすれば、かえって健康を害しかねない。

月額制の失敗原因は「ぼんやりとした未来」

ジムに限らず、月額課金制のビジネスモデルは次々に生まれているが、「どうして大して利用しないのに契約してしまったのだろう」と後悔する人は後を絶たない。自分の性格や行動を正しく把握していれば避けられる事態なのに、なぜ先を見通せないのか。それは、時間的な距離が判断を誤らせるからだ。

遠くに車があるとき、車であるということはわかっても、もっと近くに寄らなければメーカーや車種までは判別がつかない。それと同様に、時間的な距離があるとき、その先の未来はぼんやりとしかわからない。たちが悪いことに、人はそんなとき、楽観主義と自信過剰に後押しされて、決断を下してしまう。マリッジブルーもその一例だ。最初は結婚後の楽しいことしか頭に浮かばないが、結婚式やその後の生活がいよいよ近づき細部が見えてくると、理想と裏腹の現実に嫌気が差してしまうのだ。

「そのような計画の錯誤には、いくつか対抗策があります。まずは未来に待ち受ける困難は、現在想像しうるよりもずっと大きいと覚悟することですね」

遠い目標に向かって進むためには、記録をつけることも助けになるようだ。たとえばダイエットの場合も、こまめに体重の遷移を記録して、フィードバックを行う。そして、どうしても目標を達成したいときの最後の手段ともいえるのが、禁煙の際にライターと灰皿を捨てるように、「選択肢をなくす」こと。

もちろん、それでも失敗することはあるが、失敗にとらわれていては前に進めない。

「成功体験よりもはるかに失敗体験が多いのが人生というものですからね」(同)