「男性は上下関係に敏感だというのがポイントです。サルなどの群れで生きる動物を見ても、オスは競争社会で優劣が明確になります。その序列によって生殖の機会や食べ物の量が違ってくる。人間も基本的には同じなので、狩猟採集の時代から男性は競争社会を生きて、序列があったのでしょう。上下関係に敏感なのは、長い年月をかけて培った意識の働きです」

人類が狩猟採集の生活を始めたのはおよそ600万年前。日本人が農耕を始めるのは約3000年前の弥生時代だから、圧倒的に長い狩猟採集の時代に培われた男性社会の意識や習慣は、そう簡単に変化しないだろう。実際、組織内でゴマスリ上手の男性が出世するケースは珍しくないのだ。

女性もお世辞は得意だ。顔を合わせた瞬間から、「あら、きれいな色の服ねぇ」とか「その素敵なバッグ、どこで買ったの?」とか、お互いに褒め合うところから会話がスタートするのは見慣れた光景。本当は「似合ってない」と思いながらも褒めているのではないか、と疑いたくなる場合もある。

「人間は、自分と持ち物を同一視する傾向があります。服を褒められたら、自分まで褒められた気がする。心理学では自己拡大と呼びますが、女性はその効果を理解してお世辞を言っているのです」

男性のゴマスリと何が違うかといえば、そこに上下関係の意識があまり見られないこと。その代わりに自分が好きな相手か、嫌いな相手かという判断基準が強く働く。

一方で嫌いな相手には、その人のポジションを気にすることなく、冷淡になれる。ゴマスリ上手で出世した男性にとっては、実に面白くない点だ。

「女性が男性に比べて上下関係に左右されないのは、狩猟採集の時代は主に採集のほうを受け持っていたからだと考えられています。木の実などを採集しながら、序列を意識することなく誰とでもおしゃべりしていた。そのなかで役立つ情報を入手していたわけです。現代でも一般に女性のほうが会話の能力が発達しているのも、その長い年月の賜物でしょう。それに対して狩猟中心だった男性は、寡黙に獲物を追っていた。仲間と話すのは主に作戦会議。現代の男性も、目的が明確な作戦会議は熱心な一方で、とりとめのない会話は好きではありません」

お世辞やゴマスリといった日常のウソに男女の違いが出るのは、狩猟採集の時代をイメージすると理解しやすいだろう。

男性:行動の源泉は「上下関係」
狩猟の時代には男性は集団で獲物を追っていたため、作戦会議に長けていた。そのため現在も簡潔な会話を好み、ウソも作戦が円滑に進むように上下関係を重視する傾向にある。
女性:優先されるのは「好き嫌い」
女性は採集の時代にはドングリなどを集めながら、多くの会話をしていたと考えられている。長時間話すからこそ、対等な目線で話したいか否か、好きか嫌いかが判断の基準に。