気品ある顔立ちの女性は、児童虐待する恐ろしい母親
筆者は、そうした印象を元に「こいつはワルだぞ」などと推測し、審理が始まる頃には早くも心の中で有罪判決を出することがよくあった。
ところが、審理が進むにつれて、第一印象が変わってしまうことがある。じつは犯人ではなかった、というようなどんでん返しの展開ではなく、すんなり有罪が確定する事件でもそれは起きる。たとえば……。
【被告人の第一印象が変わった裁判例1】
髪の毛バサバサ、膝の伸び切ったスウェット姿の女性被告人。容疑は窃盗。第一印象は「だらしない人だな。きっと常習犯だろう」というものだった。だが、じつは子どもを必死で育てるシングルマザーで、オシャレどころかメイク品さえ持たないほどの節約を重ねていたものの、子供の卒業式にきれいな服を着させてやりたくて服を盗んだ。
→さえない服は節約の証しだったのか。やったことは悪いが、その気持ちはわかる。
【被告人第一印象が変わった裁判例2】
ダボダボの長ズボンにTシャツをイン。痩せて青白く年齢以上に老け込んだオヤジ被告人。会社の金を横領した容疑。第一印象は「こういう小悪党タイプが、いけしゃあしゃあと悪事をはたらくんだな」だった。だが、その会社の経営の実態もかなりひどく、被告人は会社が傾くのを防ぐために犯罪に手を染めた面もある。
→この人は真面目で忠誠心の強い性格であり、それを勤め先の上役から利用された案外かわいそうな人なのではないか。
イメージの変化には逆パターンもちょくちょくある。典型的なのは、筆者が女性被告人に妙な思い込みを抱いてしまったケースだ。
【被告人第一印象が変わった裁判例3】
どこか気品ある顔立ちで服装も地味ながら清潔感がある児童虐待容疑の女性被告人。第一印象は「愛情表現がヘタなだけなのでは」だったが、キレると見境なく暴力を振るう恐ろしい母親だった。発覚が遅れたのは、夫の前ではそんなそぶりを見せていなかったため。
→良き妻を演技させたらカンペキだったんだろう。ああ恐ろしい。