「無断録音した音声を一般に公開すると、話した人や企業が特定できる場合には、法的な問題が生じることがあります。具体的には、公開した録音内容が話す人や企業の社会的評価を低下させる場合には、名誉棄損が成立する余地がありますし、社会的評価を低下させない場合でも、プライバシーの侵害に当たる余地があり、不法行為が成立する可能性があります。

『公開することが公共の利害に関係するか』『公開する目的が専ら公益を図ることにあるか』という視点で考える必要があります」

企業側は無断録音をやめさせることはできない

――強い立場を利用した就活中のセクハラや、内定を出すと同時に他社選考の辞退を強要する「オワハラ」が問題視されていますが、無断録音による音声データはどのような意義があるでしょうか

「録音は、ハラスメントを立証するための非常に重要な証拠です。パワハラやセクハラの違法性を問う裁判においては、ハラスメント言動の存在を被害者側が立証する必要がありますが、無断録音やそれを書き起こした資料が証拠としてしばしば提出されます。

基本的に、無断録音であるから証拠としての価値が否定されることはありません。むしろ、ハラスメント言動の直接的な証拠である録音は、多くの事件で立証の決め手になります」

――企業側は、無断録音をやめさせることはできるのでしょうか

「企業側が無断録音をやめさせることはできないと考えるべきでしょう。たとえ、就活面接の際に『録音禁止』というルールを周知しても、そのルールに反して録音した音声も証拠として機能します」

――企業側には緊張感を持った就活対応が求められそうですね

「はい。現代は、スマートフォンなどの機器で、いつでも、誰でも、録音ができる時代です。ハラスメント音声がニュースで流れた組織が、社会的に強い非難を受けたり、謝罪会見を行うことも目立っています。今やハラスメント対策は企業の存続にかかわる問題です。

ハラスメントが起こらない職場を作ること、ハラスメント生じた場合にはそれを早期に解決を図れる職場を作ることが何より大切です。録音を禁止する姿勢は、ハラスメントの予防にも、ハラスメント問題による企業ダメージの回避にも、役に立ちません。企業は、採用活動中においても、稼働開始後においても、録音されていても問題がないような言動をとることを徹底するべきでしょう」

竹花 元(たけはな・はじめ)
弁護士
2009年の弁護士登録と同時にロア・ユナイテッド法律事務所入所。2016年2月に同事務所から独立し、法律事務所アルシエンのパートナー就任。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
"かぼちゃの馬車"残高をいじる魔法の手口
日大悪質タックル、監督も傷害罪の可能性
かぼちゃの馬車は「金を吸う魔法」だった
就活生に愛される企業はスタバで面接する
新卒1年目で解雇された地方公務員の主張