「働き方改革」を恐れる有力デベロッパー

国内の有力デベロッパーは、相も変わらず、丸の内は三菱、日本橋は三井、六本木は森、新宿は住友といった国盗り物語に余念がないが、みな自社の開発した巨大ビルには必ず坪4万円以上の賃料を負担してくれるテナントが、入居してくれると考えているようにしかみえない。

『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(牧野知弘著・祥伝社刊)

国や都が構想として掲げる、国際金融センターは実際には機能するのだろうか。私の知る限りにおいてはアジアの国際金融センターはシンガポールであり香港であり、その地位が揺らぐ気配はない。

英語も通じず、アジアの諸都市に出かけるにも遠いアジアのファーイースト日本のさらに東端の東京では、いかに得意の国家戦略特区を駆使しても、合理性の塊である金融資本主義者たちが集まるようには到底思えない。

2020年、竣工した巨大航空母艦ビルは、テナントを求めて既存の大型ビルのテナントを引っこ抜く。引っこ抜かれた大型ビルは中型ビルのテナントに手を付ける。中型ビルは小型ビルのテナントへ襲い掛かる。壮絶な「テナントドミノ倒し」のスタートが始まるのはこれからなのである。

ポイント(3)
働き方改革によるビジネスパーソンの働き方の変化

現在政府が提唱する「働き方改革」は非正規労働者の待遇改善や長時間労働の制限、裁量労働制の採用ばかりが議論されているが、実は働き方そのものに対するイノベーションがビジネスの世界では生じつつある。通信モバイル設備や機器の発達はすでに、大量の社員を抱える大企業では、「ひとりひとつ」の机が与えられないフリーアドレス制が急速に普及している。

また、米国のWeWorkの日本上陸で話題となったコワーキングスペースがその数を順調に伸ばしているが、会員の多くがスタートアップ企業ではなく、大企業なのである。つまり社員をオフィスのデスクに一日中座らせるのではなく、外に出し、コワーキングスペースで働いてもらい、本部とのやりとりは通信モバイルですませるというビジネススタイルに急速に変化しているのだ。

この流れはテナントである企業側からみれば、オフィス経費という一番重たい固定費を大幅に削減できることを意味する。果たしてこの働き方改革はこれまでの「約束されたオフィス需要」を根本から切り崩す起爆剤になる危険性を孕むものなのである。

このようにみてくるとオフィスマーケットのわが世の春は実は意外と短い春であるのかもしれない。不動産がやっかいであるのは「一度作ってしまったものはそのまま捨て去ることができない」ということだ。空き家ならぬ空きオフィス問題が東京を悩ます日が来ないことを願いたいものだ。

牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研代表取締役
1959年生まれ。83年東京大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)入行。その後ボストンコンサルティンググループを経て、89年に三井不動産入社。主にオフィスビルの買収、開発、証券化業務などを手がけたのち、ホテルマネジメントやJ-REIT開発なども経験。2009年に独立してオフィス・牧野を設立。15年にはオラガ総研を設立。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『2020年マンション大崩壊』『老いる東京、甦る地方』など多数。近著に『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)がある。
(写真=iStock.com)
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