目先のマイナスをああだこうだと論じても仕方がない
相当の紆余曲折があるにせよ、あるいは仮にテスラ自体に経営危機が顕在化しても、クリーンエネルギーを「創る、蓄える、使う」の三位一体事業というグランドデザインは、早晩、「世界のグランドデザイン」になると、私は確信しています。
テスラのような会社を評価するときに、目先のマイナスをああだこうだと論じても仕方がないところがあります。イーロン・マスクとは「宇宙レベルの壮大さで考えて、物理学的ミクロのレベルで突き詰める」人物だと私は評しました。アメリカでは、「大きく考える」の象徴でもあります。短期的な浮き沈みにとらわれることなく、イーロンが何を目指しているのかというところから読み解くべき会社です。
仮に、イーロン自身の手でそれが果たせなくても、誰かがこの三位一体事業を推し進めていくことになるでしょう。テスラを含めて、いまだどの会社もEVの量産化・収益化を果たしていません。一説によると、EV車にかかるコストの半分は蓄電池のコストだと言われており、そのコストを下げようと各社が躍起になっています。
これからの世界のための「道標」になる
また充電方法も、いまのところは大きく火力発電に依存したままです。それをよしとしないイーロンは、太陽光発電によるクリーンエネルギーを蓄電池に蓄えようと膨大な先行投資を行い、充電ステーションを建設しているのです。いまだ道半ば、それでもこれが「地球や人類にとって」理にかなった戦略であることは疑いようがありません。またテクノロジーの進化に伴い、それぞれのプロセスにおけるコストも着実に下がりつつあります。
イーロンが描くグランドデザインは、テスラのためだけではなく、次世代自動車産業のためだけでもなく、広くこれからの世界のための道標にもなるのではないかと思うのです。
だからこそ、イーロンをベンチマークしておくべきなのです。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティングおよびリーダーシップ&ミッションマネジメント。上場企業の社外取締役や経営コンサルタントも務める。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』など。