最大の同盟国である米国が金正恩の体制保証を行う形で北朝鮮と一方的に関係改善し、日本に対して経済援助を求めてくることは最悪の状況とも言える。日本政府は米国と情報共有を密にするとともに、北朝鮮だけでなく米国政府に対しても断固たる姿勢を保つように圧力をかける必要がある。

"会談キャンセル"を支持したのは世界で日本だけ

それにもかかわらず、一連の米朝間のやり取りに対する日本政府の反応は極めてお粗末だった。18年春先に北朝鮮と韓国による急激な関係改善の流れが起きたあと、日本は外交上のプレーヤーとして「蚊帳の外」に置かれているとメディアに批判され続けてきた。

これらの批判に対して、日本政府は安倍晋三首相とトランプの蜜月関係を演出し、北朝鮮問題について国内支持者には両者の連携がしっかりと取れているように見せてきた。トランプにとって日本の強硬姿勢は対北朝鮮交渉上都合がいいため、安倍との蜜月関係を演出することを断る理由はなかった。しかし、トランプにとって乾坤一擲の金正恩への書簡送付とその後のやり取りを通じ、両者の間には実際は隙間風が吹いているように見える。

安倍首相(左)は自らの意思もなく米国に追従するだけという姿を国際的に晒してしまった。(時事通信フォト=写真)

安倍はトランプが首脳会談キャンセルのための書簡を送付した後に世界でたった1国だけ「トランプ大統領の決断を支持する」と表明し、その直後のトランプの態度豹変を受けて「問題を解決するうえで米朝会談は不可欠」と変節した。その結果、安倍は自らの意思もなく米国に追従するだけ、という姿を国際的に晒してしまっている。

この安倍の奇妙な変節は日本と米国の間に書簡に関する事前の情報交換すらなかった可能性を示唆している。また、同書簡は、上述の国際情勢を理解していたならブラフの可能性が濃厚であり、日本政府の脊髄反射的な反応は誤りであった。

さらに、トランプは6月頭に開かれた北朝鮮の訪米団との会談の中で「人権問題に触れなかったこと」を記者団にあえて言明した。これは日本がトランプに対して「拉致問題解決」を求め続けていることを背景として、日本から経済援助も含めた交渉上の譲歩(通商交渉を含む)を引き出すための釣りと捉えるべきだろう。