一般学生とは別世界に生きるエリートたち

A氏がいう「悪しき日大らしさ」とは、いったいどんなものなのか。それを理解するには、まず、日大運動部の学生がどんな背景を抱えているかを知っておく必要がある。

日大保体審傘下の各運動部は、一般の日本大学の学生とは別の世界に生きるスポーツエリートの集団だ。A氏が所属していた部も、その競技のインカレ(インターカレッジ、全日本学生選手権)で毎年優勝を争うような強豪で、それに憧れた若者たちが全国から集まってくる。「ほぼ全員がスポーツ推薦で、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)出場は最低条件ですね。実績がある選手と、伸びしろを見込んで取る選手の割合が半々ぐらいと聞いています。新入生勧誘? 未経験者が入ることはありません」

そもそも、インターハイに出場するようなレベルの高校部活の指導者には日大運動部の出身者が多い。A氏の高校時代の監督やコーチも日大出身で、A氏は4年間学費免除という好条件でスポーツ推薦で日大に入学した。全国の強豪高校に広がるOBネットワークを通じて、さまざまなスポーツの「選ばれし者」たちが日大に集まる仕組みができているのだ。

入学前から聞こえていた「噂」

一方で、「日大の運動部は上下関係が厳しい」という噂も、高校アスリートたちには伝わっていた。「入学して感じたのは、聞いていたとおりだなということです。『昭和な感じ』というのか」とA氏は振り返る。日大の強豪運動部では部員全員が寮生活を送るのが基本で、学生たちは練習だけでなく毎日の生活そのものを、こうした上下関係の中で送ることになる。

A氏が所属した部の場合、朝練の前に先輩の道具の準備をしたり、水筒に水を入れたりするのは一年生の役目。朝食後授業に出るまでの間は、先輩から頼まれた買い物、洗濯、ときにはマッサージも。部室や先輩の部屋の掃除も下級生の仕事だ。

先輩の指示は絶対で、練習や生活面で不手際があれば、「罰坊主」や「罰掃除」といったペナルティを、同じ学年全員が連帯責任として課される。先輩の部屋への入り方が良くないといった理不尽な理由で、雷を落とされることもしばしばあった。

「大勢の部員がいるなかで、統制を取るための手段としてはそれなりに有効だったんじゃないかと思います」とA氏は振り返る。「先輩方には日大の看板を背負って好成績を収めてきた実績があり、強くて憧れていた。そういう人たちに言われたら仕方ない、と思っていました」