ワールドカップ直前の監督解任など、世間から強烈なプレッシャーを受けているサッカー日本代表。代表選手の1人である酒井宏樹選手は、厳しいアジア予選を通じて「大事なときほど、あえてリラックスが大切であること」を学んだといいます。それはタイとの試合直前、長谷部誠キャプテンの「ある一言」でした――。

※本稿は、酒井宏樹『リセットする力』(KADOKAWA)を再編集したものです。

アジア最終予選を振り返って

2016年9月1日、場所は埼玉スタジアム2○○2、日本代表はロシア・ワールドカップアジア最終予選の初戦を迎えました。相手はUAE(アラブ首長国連邦)。

日本は11分に、キヨくん(清武弘嗣、きよたけひろし)のフリーキックから(本田)圭佑くんがヘディングで先制しましたが、そのあとは直接フリーキックとPKを決められ逆転を許し、そのまま1対2で敗れるという結果に。

この試合を僕なりに振り返ると、敗因のひとつは、中央突破が多く、サイドを効果的に使った攻撃ができなかったことが挙げられます。リードを奪われた70分過ぎた頃からチームに焦りが生じ、急にサイド攻撃一辺倒。しかし、相手にはサイドを使うと気づかれている状態のため、ただ放り込んでいるだけで効果的な攻撃ができていなかったように思います。

取りあえずサイドにボールを出して「なんでもいいから、とにかく上げろ!」という具合です。サイドを使うのであれば、もっと効果的に試合の最初から使うべきだったのではないかという疑問が残りました。精神的にも戦術的にも、あの試合の日本代表は未熟でした。

試合後には「アジア最終予選の初戦で負けた国は、すべて予選敗退している」というデータが取り上げられ、メディアからはワールドカップ本戦出場を危ぶむ声まで挙がりました。

切り替えるきっかけとなったキャプテンの言葉

そんな状況のなか、UAE戦のあとにはすぐにタイ戦があり、遠征先のバンコクでキャプテンの長谷部(誠)さんから「みんなで飯を食いに行こう」という提案がありました。

そして、選手全員で日本食レストランへ向かうことに。

別にそこで何か特別な話し合いがあったわけではありません。初戦の結果で全員がこれ以上ないほどの危機感を持っていましたから、改めて口に出す必要がなかったのだと思います。

「もしかすると長谷部さんは、そんな僕たちを見て、プレッシャーから解放させるために食事の機会を設けたのでは?」と、あとになって思いました。

それだけUAE戦の敗戦は、僕たちに重くのしかかっていたので、みんなで食事をして、気持ちを切り替えてリラックスさせる必要があると長谷部さんは考えたのかもしれません。それを実際に行動に移せるのですから、さすがはキャプテンです。