生活保護の90歳老母を娘が夏と冬に「入院させる理由」

【症例2】生活保護受給者のパチンコ代よりヤバいもの

ならば、「年金額が低ければタカられない?」といえば、そういうわけでもない。生活保護というセーフティーネットは、資産のない、「年金なし老人」や「低年金老人」への生活保護費の支給を認めている(『万引き家族』でも、祖母が世帯分離して生活保護制度を活用すれば、万引きをしなくても暮らせたはず)。

生活保護制度には、最低限の生活費や住居費を補助する「生活扶助」や「住居扶助」などの他に、医療の現物給付を行う「医療扶助」がある。すなわち、医療費がタダになるのである。

90歳の女性C子さんは一人暮らしをしていた。「熱中症で倒れた」という娘Dからの要請で昨年8月2日に救急車が急行。いったん入院することになった。だが、ひと通り検査をしたものの、「特に異常なし」。脱水症状も改善したので病院側は退院勧告したが、Dは拒否した。

その後も「ふらつく(と母が言う)ので原因をしらべろ!」「ムリに退院させて何かあったら責任とってくれるのか!」と主張してさらなる処置や高額医薬品を病院に要求し続けた。

結局、居座りは約1カ月。8月31日に退院した。なぜ、このタイミングで退院したのか。理由がある。入院が長引いて月をまたぐと、生活保護のうち住居扶助がカットされるのを勘案したのだ。Cに振り込まれる生活保護費は約15万円、その通帳は近居のDが管理しており、光熱費(主に冷暖房費)のかさむ夏冬は何がしかの病気を主張してCを入院させることで食費・光熱費を浮かせて節約したのである。Cにかかる数百万円の医療費は公費から支出されており、Dの懐は全く痛まない。

生活保護費の不正支給といえば、「働かずにパチンコ通い」といった行動が問題視されている。しかし、医療扶助のほうがケタ違いに高額であり、明らかに国の社会保障費を圧迫している。特に医療関係者であれば、そう思うはずだ。貧困問題や生活保護のことに関して「金より命!」「弱者切り捨てを許すな!」と主張する知識人や政治家は多い。その主張は間違ってはないが、「裏面」を何も知らぬままキレイ事を言ってはならないはずだ。

【症例3】80代介護事故、賠償金4000万円の衝撃
写真はイメージです(写真=iStock.com/yipengge)

老人介護施設に入所していた84歳の女性E子さんは、食事に提供されたバナナをのどに詰まらせて倒れ、救急病院に搬送された。一命はとりとめたものの意識不明となり、1カ月後に死亡した。

地元に住む長男夫婦からのクレームはなかったが、ほとんど面会に来なかった東京在住の50代の娘F夫婦が頻繁に来所するようになった。そしてこう言って、施設を責め続けた。

「バナナを刻まなかったのは施設の過失!」
「苦しみながら死んだ母に詫びろ!土下座しろ!」
「説明義務を果たせ!」
「報告が遅い!」
「こんな紙切れ一枚の報告書で済むと思うな!」

最終的には「業務上過失致死傷で刑事告訴する」と息巻いたという。責められた担当の介護職員たちは次々に離職し、施設側は騒ぎを収束させるために高額の和解金を支払うしかなかった。