リアリティを考えるとハッピーエンドにはできない

でも、彼と話しているうちに、「いや、待てよ……」と思った。壮介は恋をするけど、相手にしてもらえない。久里は、「たまにおいしいごはんをごちそうしてくれる相手としてならいいか」と思って、壮介といる。

これなら、勝手に「恋では終わっていないぞ」と気合が入る壮介の姿も描ける。リアリティを考えると簡単にハッピーエンドにはできません。甘くない結末ですが、やはり壮介に片想いをさせたのはよかったと思っています。

くだんの編集者もここまでシリアスな展開は予想していなかったようで、1章書き終えて原稿を渡すたび「こんな悲惨になっちゃうの?」と嘆きまくりでした。

脚本家の内館牧子さん(撮影=原 貴彦)

「家庭がうまくいっていない男」はモテる

「オジサンの恋なんてリアルじゃない」とは言いましたが、すべてのオジサンに可能性がないわけではないと思います。作中でも壮介より少し若いだけのフリーランスのイラストレーター・トシは、妻に死なれて独身です。もてます。クリエイティブな仕事をしていたり、家庭がうまくいっていなかったりして、どこかまとっている空気の違う、1割くらいのオジサンは私の周囲でももてます。

「男はどこか破綻した空気がないとモテない」。作中で壮介にこう助言するのは、娘の道子です。

道子は、自分と同じ年頃の女に淡い恋心を抱いている父親にすぐ気付く。道子はリアリストですから、もちろん成就できずに苦しむ父親に向かってはっきりとダメ出しもします。「若い女がオヤジに恋するなんて普通はないからね」「娘としては、勘違いして恋に身を焦がす父親なんて見たくない」と。

これは「目を覚ましてよ!」という私の本音です。もちろん、世の中には、オジサンと若い女が熱い恋をして、心中まで行くこともあれば、名作とされる映画だってたくさんある。私もそういう作品を楽しんで見ることはあります。でも、それなりに平凡な家庭を築いてきた普通のオジサンには、やっぱりそんなチャンスは少ないでしょうね。自分が壮介の娘だったら、道子のように言います。

結果的に、「こんなことを言ってくれる娘がほしい」という道子へのラブコールのお手紙が私の元にはたくさん届きました。みんな、基本には父親への愛情があり、だからきついことを言う娘がほしいんでしょうね。