この点、「2ちゃんねる」などの一部の掲示板では、民事裁判手続きを事実上無視しているため、発信者情報を遡ることが困難になっています。こうした掲示板の管理者に対しては、適正な運営のために行政的な関与を立法で検討する余地もあると私は思っています。

また、せっかくログを遡ってみても匿名利用可能なネットカフェからの発信では個人を特定できないので、ネットカフェ側で入店時の本人確認をしっかり行う必要が高く、行政側の対応に引き続き期待したいところです。

ところで、被害が重い場合などは、刑事事件に発展する可能性も高くなりますので、警察への被害届提出や告訴を検討することになるでしょう。

この点、「2ちゃんねる」などでは民事裁判手続きが無視されるために、一般的に刑事手続きによらなければならない現状があり、刑事法の謙抑性に照らすと真に憂慮される状況となっています。

そもそも人権は、他者の人権を侵害してまで保障されるものではなく、表現の自由とて、他者の名誉権や私生活の平穏を害してまで濫用してよいものではありません。その一方で、表現行為に対する警察当局の関与が頻繁に行われることもまた、個人の自己実現や民主制に不可欠な表現の価値に照らして、本来望ましいことではないでしょう。

自由な表現の場を提供するという名の下に、濫用的表現の温床を提供し、結果として警察当局の関与を常態化するような事態は、およそ表現の自由の意義を理解しないことと私は思っています。表現の自由の保障のあり方を多くの方々に考えていただきたいと思うゆえんです。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=成松 哲)