安倍政権は完全に詰んだと思っている
「冒頭解散」で封殺したはずのモリカケ問題の“真実”がめくれ上がり、陸上自衛隊の南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報に続いて政府が「存在しない」としてきたイラク派遣部隊の日報が見つかるなど防衛省の情報隠しが次々と明らかになって、ついには財務事務次官がセクハラ疑惑で辞任に追い込まれた。元東京地検特捜部の検事だった郷原信郎氏が「“安倍王将”は『詰み』まで指し続けるのか」とブログで指摘しているが、私も安倍政権は完全に詰んだと思っている。秋の自民党総裁選で安倍首相の三選はもはやありえないし、総裁選を待たずして職を辞する可能性も出てきた。
悲しいかな、安倍晋三というリーダーを退出させるのは、総理大臣としての彼の仕事ではない。アベノミクスにしてもアベクロバズーカにしても、21世紀の経済というものを理解していないお粗末な経済政策ではあるが、退陣を余儀なくされるような問題は引き起こしていない。
今国会を空転させているのは、安倍氏が首相として行った直接的な仕事ではない。安倍晋三という個人の極右思想、あるいは復古主義的な思想信条、それに共鳴する右派人脈や古い友人関係、さらに安倍首相の意向を過剰に忖度する取り巻きや役人によって引き起こされたのが森友学園問題であり、加計学園問題なのだ。園児に「教育勅語」を暗唱させるような気持ちの悪い学校法人に入れ込んだのは安倍晋三・昭恵夫妻の個人的趣味であって、森友学園への国有地払い下げに安倍首相が直接関与しているわけではないだろう。
陸自の日報問題についていえば、これも首相の仕事とは直接関係ない。安倍首相としては安保法制によって自衛隊の任務を拡大し、海外派遣の実績をつくりたかった。安保法制の適用第1号になったのが、民主党政権時代から派遣している南スーダンPKOだ。自衛隊のPKO参加5原則の1つは「紛争当事者の間で停戦の合意が成立していること」で、派遣当初は南スーダンでは南北の停戦合意があった。しかし停戦合意が破られて現地の治安は悪化、「戦闘地域に自衛隊を派遣するのはPKO法違反であり憲法違反」との声が高まった。17年3月に安倍政権は急遽、南スーダンPKOから自衛隊の撤収を決める。表向きの理由は「南スーダンでの活動が5年を迎えてひとつの区切りがついた」からだが、現地の情勢悪化が影響したとの見方が強い。
そうした現地の情勢を克明に記録しているのが、陸自が作成した日報だ。しかし日報の情報公開請求に対して防衛省は「陸自がすでに廃棄した」と拒否。「日報」を出せと野党に詰め寄られた当時の稲田朋美防衛大臣も「廃棄した」と国会で答弁して引責辞任に追い込まれた。おかしな答弁を繰り返した稲田元防衛大臣も“安倍友”であり、森友学園の訴訟を担当した“森友フレンズ”である。
結局、南スーダンの日報データは発見されて、隠蔽の経緯を防衛省が調査していくうちに、今度は政府が「存在しない」と説明してきた小泉純一郎政権時代のイラク派遣の日報まで見つかった。04年から06年の合計435日分、約1万5000ページもの日報だ。そんなに大量の文書が“発見”されたのは陸自の研究本部。貴重な海外派遣の記録を後世に伝えるために保管していたのだ。「存在しない」日報が存在したことに、「シビリアンコントロールが利いていない」とか「背広組が制服組にバカにされている」と野党が騒いでいるが、そうではない。戦場の現実を知らないバカな背広組がいるから、恥をかかせないように制服組が隠してくれていたのだ。