日本経済の見通しはいまだに明るくない。自動車、家電、金融、ITといった主力産業も手探りでなんとか前進している状態だ。そうした逆風のなかでも、「餃子の王将」を展開する王将フードサービスは堅調な業績を挙げている。
創業は1967年。大東隆行氏は社長就任以来、「原点回帰」を標榜し、不況に強い企業体質をつくってきた。
大東「王将は安いだけの店とは違います。手づくりにこだわり、それぞれの店は店長の裁量にまかす。そして、オープンキッチンにして活気あふれる店舗にしている。どれも昔からやってきたことで、うち独自のやり方です。原点を重んじて努力してきた結果が不況でも好成績となっているのでしょう。
たとえば手づくりへのこだわり。セントラルキッチンで調理した冷凍の食材を使うと味が似通ったものになってしまい、他のチェーンと差別化ができなくなる。うちでは餃子のあん、皮、それから麺類の麺はセントラルキッチンから運んでますが、あとは全部、店で作っている。野菜はキャベツでも玉ねぎでも、まるのまま店へ持っていく。
うちの従業員は料理人です。よそとはそこが決定的に違う。冷凍したものを温めて出すのではなく、料理人がちゃんと料理を作る。だから、野菜は店で切る。カットした野菜は使わない。
うちでは土産(テークアウト)を持って帰る人も多い。テークアウトの比率はおそらく外食だとナンバーワンでしょう。来店客のうち18%くらいが何か料理を持ち帰るんだから……。店にとってはそりゃ、大きな利益になりますよ。テークアウトを重視するのも創業当時からやっていたこと。あの頃は容器がなかったから、お客さんは鍋とか皿を持って店に来ていたね。
経営には数字が大切だ。うちでは25年前にコンピュータのシステムを導入して、前日の各店舗の売り上げ、損益が朝8時までに全部、見られるようになった。しかも対前年比でわかる。本社ビルはご覧の通りぼろぼろや。ビルはカネを生まんからそれでいい。しかし、コンピュータにはカネをかけた。
王将は1号店から店については店長の自主性にまかせている。だから、店によって出すメニューが違う。よその外食チェーンは本部がこれを売りなさい、あれを売りなさいといった管理をする。しかし、何でもかんでも本部が決めてしまったら、店長は工夫する余地がなくなる。それはよくない。うちでは店長が売れると思ったら和食でも洋食でもフランス料理でも何のメニューでも出していい。僕は『かまへん。好きにやり』と言うだけ。ただし、売れないとダメだし、40品目くらいあるグランドメニューはかえてはいけない。それ以外のところで創意工夫せよ、ということや。
うちの会社は個性派の集団で、いわば動物園みたいなものですよ。そんな個性豊かな従業員がついてきてくれるのも、僕が想像を絶するくらい働いたからだろうね。僕は本部で夜中まで仕事をして、それから店に行って、朝まで掃除をしたことが数えきれんほどある。朝になると、店の鍋で湯を沸かして体を拭いた。そんなこと、なんぼでもあるよ。血の汗、血のしょんべんを流しながら働いた。うちのみんなはそれを見てる。だから、会社はまとまった。
食べるときは雰囲気が必要や。包丁の音がして、鍋を振ってる料理人が目の前にいて、おいしそうなにおいが漂ってくるから食欲がわく。だから、うちではオープンキッチンにしてる。
10年前、うちの会社は危機だった。470億円の負債を抱えて、つぶれるかどうかの瀬戸際や。僕は3年間は財務の立て直しに精を出し、そして原点回帰を訴えた。店を改装してオープンキッチンを徹底し、作り置きやセントラルキッチンでの調理をやめた。店長の自主性を重んじることにした。それで数字が上がるようになり、借金はほとんどなくなった。
うちでは毎日、130万個の餃子が出る。皮を包んでいるのは従業員や。ちょっと手が空いたら、みんな一生懸命、餃子を包む。お客さんはちゃんと見てる。そこが大事。それが飲食業。
結局、飲食業は人や。人がやる気になったら行動は変化する。経営者がやることはその動機づけです。よそは社長がいちばん上にいるピラミッド組織だが、うちはまったく逆。お客さんがいちばん上にいて、次が従業員。業者やフランチャイズがいて、底辺にいるのが僕や。経営者は主役とは違います。主役はあくまでお客さん」
※すべて雑誌掲載当時